●50早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/39-54に関わるスタッフを育成することと,情報の共有を図ることを目的とした事例検討会は,支援スタッフに自らの支援体制や支援システム全体を見直す機会を与え,共有の場を提供する機能を果たしたと考えられる。3.5 支援システムにおける事例検討会の意義3.5.1 事例検討会はどのような意味を持っていたのか本節では,3.1から3.4の知見を振り返り,支援システムにおける事例検討会実施の意義について考えていきたい。3.2で述べたように,事例検討会は次の二つの目的で行われた。1つ目は,各自の事例について意見交換をしたり,使用可能なリソースを紹介したりすることで,多様な対応が可能であることを支援スタッフに理解してもらうことにより「継続的・主体的に関わるスタッフを育成すること」である。2つ目は,支援スタッフが対応した事例を支援スタッフ間,教職員スタッフ間で共有することで「情報の共有を図ること」である。そこで,以上2つの目的が教職員スタッフと支援スタッフのそれぞれにどのように受け止められていたのかを3.3 事例検討会当日の話し合いの様子と3.4 アンケートの記述の中から,総合的に考察していきたい。まず,1点目の「スタッフの育成」についてである。今回の事例検討会では,支援スタッフが抱えている問題に対し,教員側が何かしらの答えを提示するというスタンスではなく,支援スタッフ同士で自分たちの支援のあり方を検討するということが目的であった。その背景には,各支援スタッフに活動に主体的に関わり,支援の場を作っていってほしいという思いがあった。実際,当日の話し合いの場では,複数のグループから支援スタッフ間の連携の必要性が提案され,報告書のWEB上の共有や担当者の固定など連携に向けた様々な具体的なアイディアが出された。支援スタッフたちが支援システムという場について考え,よりよい場にするための改善策を自分たちなりに考えている様子と言えよう。また,事例検討会終了後のアンケートからは,支援スタッフが支援システムの場にそれぞれの意義を感じている様子が見られた。例えば,支援のための活動が学習支援者である自分自身の教育観を見直す機会であったという声,「教える」ということに対する姿勢を変化させることに繋がったという声,学習者がどのような環境で日本語を学んでいるのか,どのような悩みを抱えているのかを知ることができたという声,教室の中だけでなく,学習者が生きている様々な文脈の中で学習者を捉える視点を得たという声などが聞かれた。このような声から,彼らが支援の場に関わることに自分なりの意義を感じ,活動に主体的に取り組んでいた様子が窺える。以上から,今回の事例検討会を通して,「主体的に関わるスタッフ」の育成の第一歩を踏み出せたのではないかと考えている。なお,「継続的に関わるスタッフ」については,終了後のアンケートからは,来学期も継続して活動を続けたいという声が半数近く見られ,活動に対して前向きな姿勢を持つスタッフが多いことが窺えた。続いて,2点目の「情報の共有」についてである。情報の「共有」には,教職員スタッフと支援スタッフの間の共有と支援スタッフ同士の共有という2つのレベルの共有が見られた。教職員スタッフと支援スタッフが全員顔をそろえるのは,実質,今回の事例検討会が初めてのことであった。そのため,支援スタッフのアンケートの中には,「こんなに多くの人が支援システムに関わっているとは知らなかった」などの驚きの声も聞かれた。また,教職員スタッフにとっても,今回の事例検討会は,支援スタッフと直接顔を合わせ,支援システムの理念を伝えたり,様々な運営上の疑問
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