早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●47守谷智美,他/留学生支援システムにおける行動指針とスタッフ・ディベロプメントに関する検討特集 教室中心主義からの解放/基幹論文かと考えていた。すぐに答えがほしいと思って来室する相談者に対し,支援スタッフが学習方法をアドバイスするだけでは相談者はなかなか満足しない。チュートリアルと言えば一対一で答えを教えてもらえるものだという名称から得られる一般的なイメージがあり,それと支援システムの理念には隔たりがある。そのため,相談者に支援システムの場の活用方法を理解してもらえるよう,名称の変更と支援システムの運営目的を改めて相談者に周知することが提案された。一方,支援スタッフの配置や報告書についても再考すべきだという意見も上がった。支援スタッフの配置に関しては,連携を強めていけるよう曜日ごとに固定し,スタッフ同士で各自の専門や母語などの情報をお互いに把握しておくことが提案された。また,毎回終了後に手書きで提出していた報告書に関しては,今後デジタル化し,それとは別に支援スタッフが悩みや感想を書き込めるノートを1冊常備したらよいのではないかという案が出された。グループ3は各支援スタッフが抱えていた自身の支援方法に対する疑問や不安を共有することから始まった。このグループは相談者が強いビリーフを持っていると推測される事例を集めたグループであったため,支援スタッフの持つ教育観と相談者の持つ学習観が異なっていた場合に,支援をどのような方向へ進めていけばよいのかと悩んだスタッフが多かったようである。相談者が信じる学習方法の手助けを求められても,支援スタッフがその方法の学習効果を疑わしいと感じた場合,どのように話し合っていけばよいのか,また,たとえ相談者が納得し,満足して帰ったとしても,その支援方法は本当に適切であったのかどうか,支援スタッフは常に自問し続けていた。事例から互いの悩みを話し合っていく過程において,どのような学習方法であれ,相談者が支援システムの場をそれぞれの日本語学習を助ける場として活用しているのであればよいのではないかという認識が生まれ,それによって安心できたと語る支援スタッフもいた。最後にグループ4は,教える場ではない支援システムの場をどのように捉えたらよいかという論点で話し合った。相談者の中には日本語を学ぶ機会が少なかったり,明確な日本語学習目的がなかったりする者も少なからずいた。その多様な背景から,表面的には日本語学習のためのアドバイスを求めて来室したように見えても,実は何か個人的な問題を抱え,その解決方法を相談したくて訪ねてきたのではないかと考えられるケースがいくつか挙げられた。このような場合,支援スタッフがどれだけ学習面からの支援を行おうとしても相談者との距離は縮まらないだろう。たとえ一歩踏み込んだとしても,プライベートな領域にどこまで入り込んでよいのか判断するのは難しく,支援者としての役割や支援方法に悩んだスタッフが多かったようである。だが,話し合っていく中で,明確な解決案が出なくても相談者が一時的にでもほっとできるような「居場所としてのチュートリアル」といった在り方があってもよいのではないかという意見が上がり,賛同を得た。そのような居場所作りの一環として,支援スタッフ同士の連携強化と同時に,日本語学習以外の情報を求める相談者のために支援スタッフ自身が大学内の学部や研究科,サークルなどの情報を収集し,相談者に提供できるような体制が必要であるという気づきに至った。このようなグループでの話し合い後,話し合った内容について各グループのメンバーで選んだキーワードとして出されたのは,以下,表3のようなものであった。グループによる話し合いは予定時間を延長して行われた。会を運営する側としても可能な限りグループでの話し合いの時間を取るよう配慮したが,それでも話し足りないグループもあった。話し合いの内容としては,支援システムの運営方法,自律学習を支援することの捉え方,チュートリアルのあり方などに関する意見が各グループから共通して出された。支援スタッフがそれぞれの経験

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