早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●433.スタッフ・ディベロプメントとしての事例検討会の実施とその意義守谷智美,他/留学生支援システムにおける行動指針とスタッフ・ディベロプメントに関する検討特集 教室中心主義からの解放/基幹論文に当たるスタッフの声も反映していく必要があると考える。また,どれほど崇高な理念や行動指針が整っても,それが共通認識として支援スタッフに浸透し,日々の実践の中で実行されていくのはそれほどたやすいことではない。留学生が気軽に立ち寄れ,日本語学習に関する情報収集を行うことができ,共通の目標を持った友人や先輩と日本語学習について話したりする中で励まされ,新たな目標を見出したりするなど,発達促進的であり,かつ安心して利用できる「居場所」としてこのシステムを機能させていくためには,支援スタッフの育成が不可欠であると考える。2で述べたような行動指針に基づいて留学生支援システムを運営するにあたって,実際に相談者と関わる支援スタッフへのサポートや,その育成はきわめて重要であると考えられる。このような活動の一環として,筆者らは2011年春学期末に事例検討会を実施した。本章では,その事例検討会についての報告を行う。3.1 事例検討会に至るまでの経緯支援スタッフの業務へのサポートと支援スタッフの育成に取り組む筆者らアドバイジング班では,スタッフ・ディベロプメントの一環として何をするべきか話し合いが重ねられてきた。その取り組み案の中のひとつに事例検討会があった。在住外国人の子どもに学習サポートをする学生NGO団体に所属していた経験のあるメンバーが,そこで行われていた事例検討会をヒントに提案したもので,チュートリアルを訪れた学習者に対する支援スタッフの対応からいくつか事例を取り上げ,支援スタッフ同士で対処の仕方を検討するものである。一度きりの実施ではなく,毎回の議事録を残していき,会の実施を継続することで,長期的なスパンで後に続く支援スタッフも共有できる取り組みを目指すことを視野に入れていた。事例検討会の他には,講師を招き,学習支援についての知識やノウハウを学ぶ勉強会・ワークショップや,他大学の学習支援スタッフを招き,支援スタッフ同士の交流促進を図る勉強会・ワークショップなども案として出されていたが,まず事例検討会の開催から行ったのは,早急に実施する必然性があったためである。2011年度春学期から始動したチュートリアルでは,支援スタッフが学習者にどのように対応をすればよいか,もしくは対応するべきだったかとその方法に戸惑うケースが多く見られた。このことから,アドバイジング班では対応の際に感じたことや対応に関する悩みなどを共有する場として事例検討会を実施することを決定した。そして,支援スタッフが対応に戸惑うケースを集約し,事例検討会の目的を明確にした上で,その準備に取り掛かった。3.2 事例検討会の概要3.2.1 事例検討会の目的事例検討会の実施を決定し,具体的な内容について検討を重ねる中で,アドバイジング班は,支援スタッフがチュートリアルで「あのときはこう対応すべきだった」といった唯一の正解を見つけるのではなく,「あの対応でよかったのだ」と自身の対応を肯定的に捉えると同時に,多様な支援のあり方を知る機会を作ることが重要であると考えた。また,支援スタッフが一人で対応事例を抱え込むことのないよう,問題点を含め支援スタッフ間やそれを支える教職員スタッフとの間で共

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