●422.2 本支援システムにおける行動指針本センターにおける支援システムは,留学生相談そのものを担おうとするものではないが,留学生自身の自律的な日本語学習を支援するという発達促進的な支援である点,また,院生である支援スタッフによる非専門家の援助資源を活用するピア・サポートを採り入れているという点で,コミュニティ心理学的アプローチから学べることは少なくないと考える。それゆえ,これらの理念や実際に行われてきた他機関での事例を念頭に置いた上で,本支援システムにおける支援の際の行動指針とスタッフの育成に関して,何が必要であり,何ができるのかを考えなければならない。筆者らアドバイジング班において,各々がこれまでに関わってきた異文化間支援の経験等も参考としながら,本システムにおける留学生支援の際に必要な支柱となるべきものとして現在までに検討してきたことを,以下,3点にまとめて示す。第一に,留学生への支援の際,受容的な態度で相手の話を傾聴し,信頼関係を築くよう努めることである。これは,既述の平木(2000;1997)による「相手の枠組み」で理解するというカウンセリングの際の考え方や,異文化間支援において生じる異文化間であるがゆえの認知的ずれを修正する必要があるという加賀美(2002)の指摘,また,相手の多様性を尊重するコミュニティ心理学の基本理念等に基づくものである。さらに,水野(2005)は留学生相談の観点から,留学生は専門家にさえ援助を求めることに不安や心配を抱えているため,援助を行う側が敷居を低くする試みが必要であると述べている。来日直後の不安や期待,あるいは何らかの問題を抱えて来室する留学生にとって,本支援システムが安心して相談できる場として認識されるには,この点は支援の際の重要な基本事項であると考えられる。第二に,他者や他機関との連携を重視することである。本センターにおける支援システムは日本語学習に焦点を当てたピア・サポートによるものであるため,そこで対応できることには限界がある。2.1で述べたように,留学生の抱える問題は複合的であるため,問題として持ち込まれたことを無理に背負い込み,その限定された範囲内のみで解決しようとせず,例えば心理的・身体的等の理由で複雑な状況を抱えた留学生には学内の学生相談室や保健管理センターを紹介する等,学内外のリソースを最大限に活かし,相談者である留学生と他機関や他者を適切に「繋ぐ」ことも重要な役割であると考える。そのような意味で,常に留学生とともに留学生を取り巻く環境をも視野に入れておく必要がある。また,ピア・サポートの場合,支援に当たった院生の支援スタッフ当人では抱えきれないような状況が生じることも考えられるため,他の支援スタッフや支援に関わる教職員スタッフに相談するなど,本システム内における相談・連携も重要である。これは,加賀美(2010)でも言及されていることである。第三に,相談内容について検討する際,一時的な解決を行うのではなく,将来的には相談者である留学生が自身で問題解決できるような支援を目指すことである。これは,コミュニティ心理学における問題を抱えた当事者の持つ強さとコンピテンスを重視し自己効力感を高めるという考え方,また問題解決に向けた取り組みの過程に当事者を巻き込み,共に問題解決を図るという考え方とも関わる。本支援システムは,各留学生が本学を離れても生涯にわたって学び続けていける人間成長を支援することをその大きな目的の1つとして掲げているため,この点は重要である。以上3点がこれまでに検討され打ち出された本システムの行動指針の支柱となるものである。ただ,これらは現在も日々継続されている支援の中で,実際の留学生の相談への対応事例とも照らし合わせつつ繰り返し検討され,修正・付加を重ねていかなければならない。そこでは,実際に支援早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/39-54
元のページ ../index.html#44