●40(2009)は,留学生相談の場に持ち込まれる多様な問題をマクロ・メゾ・ミクロの3レベルに分類2.留学生支援の際に必要とされる行動指針早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/39-54象とした異文化間支援の際に必要とされる姿勢や留意点についてコミュニティ心理学等の理念やそれらに基づいた先行事例を概観し,本支援システムにおける支援の際の行動指針を提示する。次に,本支援システムにおいて留学生支援に当たる支援スタッフの育成を目的とした事例検討会について,実施に至るまでの経緯や会の趣旨・概要,会における実際の検討内容,事後アンケートの結果等を報告し,スタッフ・ディベロプメントの一環としての事例検討会の意義と可能性を探る。最後に,これまでの活動を通して明らかとなった本支援システムにおける今後の行動指針の検討や更なるスタッフ・ディベロプメントの必要性など,今後の課題について述べる。2.1 留学生支援に関わる先行研究及び事例留学生が抱える問題には,異文化間背景に起因するものが大きく関わる。加賀美(2002)・箕口している。マクロレベルの問題は,環境的,物理的な要因によるもので,経済的問題や住居問題がある。また,メゾレベルの問題は,情報提供や対人関係に関連するもので,例えば異文化環境において情報ネットワークを構成する対人関係が希薄なために知るべき情報を知らないという「情報からの疎外」などがあり,これらはマクロレベルの問題とミクロレベルの問題とも連動するような問題であると捉えられる。さらに,ミクロレベルの問題は,日本語学習や健康・心理に関する問題であり,言語学習が困難な場合や日本語コースに順応できない場合,自尊心の喪失や学習時の集中力の欠如,動機づけの低下などが見られるというものである。本センターにおける留学生を対象とした支援システムは,留学生一人ひとりの日本語学習への自律的な取り組みを支援するものであるが,留学生が抱える様々な問題の中の,特に日本語学習に関わる問題に焦点化し,その解決に向けた支援を行うことで,問題を抱えた留学生が危機的な状況に陥ることを回避する一助となるものと考えられる。もっとも,加賀美や箕口が指摘しているように,留学生に関わる問題はそれ単独で存在するというより他の問題とも複雑に絡み合っていることが少なくなく,それらの要因を切り離して対処することは困難である。そのため,留学生によって日本語学習支援の場に持ち込まれる問題は,表面的には日本語学習に関する問題のように見えても,その根底には多様な問題が絡み合って存在する可能性があることを,支援を行う側は十分考慮に入れておかなければならない。その上で,解決に向け,当事者である留学生とともに検討していくことが重要である。それでは,異文化間の支援の際,支援する側にはどのような姿勢が求められるのであろうか。加賀美(2002)は,異文化間での高い心理的ストレスが負荷されている留学生に対する援助者の関わり方として,次の2点を挙げている。第一に,相手を大切に思う気持ちを伝えることであり,相手の「話を聴く」,すなわち平木(2000)の言う「相手の枠組み」で理解しようと耳を傾けることである。留学生は自分の気持ちを理解してくれそうだと思う援助者を選び,その人に自分の心を開いて話すのだという。第二に,相手の言うことが自分の理解と同じかどうか確認し,認知的なずれを修正することである。文化差がある上,言語での表現力が関わる場合もあるため,このことは重要である。このように,異文化間支援では,多様な理解の枠組みを持つ留学生一人ひとりに対し,多様な手段を用いながら相手の理解の枠組みに近づく努力が必要であるという。
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