●364.報告のまとめと今後の実施に向けて早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/25-37思われる。留学という大きな学習上の転換を迎える留学生にとって必ずしも日本での学習や生活は,簡単なことではないかもしれない。現に本稿でも述べたことであるが,日本語学習の場を探しに来ていたり,日本語の話し相手を求めてきたりと学習上の困難をこの日本語チュートリアルで解決しようという留学生の姿があった。他の人には相談しにくい生活上の悩みなども気軽に相談できる日本語チュートリアルの存在意義は決して小さくないと思われる。3.2 支援スタッフにとっての日本語チュートリアル支援スタッフにとっての日本語チュートリアルについても述べておきたいと思う。特に日本語チュートリアルを経験した支援スタッフは,自らの日本語教師としての技術力や知識力を振り返る契機になったのではないだろうか。大学院カリキュラムの実践科目といった現場でもリアルな学習者を目の当たりにすることがあるとは思うが,担当者のデザインした授業という形態の中でどれだけ主体的に関わりを持てるかといったことを考えると,日本語チュートリアルでは第一運営者として位置づけられており,関わりの度合いは非常に濃い。ときには非常に困難な対応を迫られることあったり,自らの対応が来訪者の次の学習へつながったりとその充実感は非常に大きいものであっただろうと想像できる。そうしたことを鑑みれば,「支援スタッフの成長」といった意義が日本語チュートリアルに認められていいのではないだろうか。また,支援スタッフとともに日本語チュートリアルに参画している教員スタッフとの関係性や支援スタッフ間の協働体制から学べる「学びの人間関係構築」といった側面も一つの大きな意義であると考えられる。このように日本語チュートリアルは,自らの成長にしろ,学びの機会の増長にしろ,支援スタッフにとっても意義深いということが言えると同時に,留学生自身の意義も確認することができた。日本語チュートリアルにはそうした互恵性が価値として存在しているとも言える。本稿では,早稲田大学の日本語センターにおける留学生支援システムが体現化された支援サポートの一環である日本語チュートリアルについて,その実施の概要と実施記録から考察される意義を中心に述べてきた。2011年度春学期の実施後,日本語チュートリアルは新たに「わせだ日本語サポート」として,秋学期にも継続して実施されている。春学期の実施後に行われた事例検討会や教職員や支援スタッフの様々な形の反省も踏まえて新たな体制の下,「わせだ日本語サポート」は生まれ変わっている。中間的な報告をするならば,すでに開始から2ヵ月少しで来訪者数(述べ人数)は春学期の来訪者数(述べ人数)を超えている。春学期には地震の影響もあったかと思われるが,さらなる活動に向けた宣伝や広報などの効果とともに,このサポートの意義が留学生にも伝わっていると願いたい。まだまだ課題が多い「わせだ日本語サポート」ではあるが,学習者の自律的な日本語学習の実現や日本語教師への啓蒙をも含めた活動をさらに継続していかなければならないと思っている。そのための実績作りや研究活動への展開も今後の課題となろう。支援スタッフとしての大学院生の育成は喫緊の課題であるし,今後大学との交渉が必要な固定的な支援室の確保なども大きな課題と言
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