早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●353.日本語チュートリアルの意義中山英治/留学生支援システムにおける日本語チュートリアルの実施概要とその意義表8 支援スタッフが対応に困った事例見かけの相談内容日本語に関すること専門的な知識に関すること専門的な知識が必要な卒・修論指導,支援スタッフの知識の及ぶ範囲外の質問 留学生の心身に関すること留学生の心身上の相談,悩みごと,態度が反抗的 など特集 教室中心主義からの解放/基幹論文相談上の困難質問が瑣末,対応に反発する,対応を参考にしない などなどしまっていいのかという「理念を背景にした内省」も記されていた。また,具体的な対応を経験する中で秋学期の実施にもつながっているような日本語チュートリアルの教室環境づくりや支援スタッフの体制作りに関するコメントも見えるようになってきた。例えば,前者の例としては「複数人の来訪者にどう対応するか」といった問題意識の芽生えや後者の例としては「支援スタッフの言語能力」や「留学生と同じ目線で対応可能な留学生の支援スタッフ」といった観点から記録がされることもあった。春学期も終わり頃に近づく第3期になると,日本語チュートリアルに継続して複数回来訪してくる留学生の存在が見えてきた。その来訪者の相談内容も支援スタッフにとって必ずしも楽ではない,非典型的な相談内容であって,自ずと記録上でも支援スタッフや教員スタッフ間でも話題に上ることが多くなった。また,複数回の来訪ではなくても支援スタッフの対応力の範囲を越えてしまうような相談内容の場合もある。例えば,留学生の持ち込んだ相談で対応に困る事例を簡単に挙げておくと,次のような事例である。このような対応に困る事例に関しては,今後もどのような検討をするべきなのか議論を続ける余地があるが,春学期の終わりに開催した事例検討会や教員スタッフからのアドバイスなどで支援スタッフを支えていく方法が春学期には取られた。また,記録を見ると,対応が困難な来訪者であっても,対応の中で学習目標を考えるためのシートを自ら作成して来たという報告や以前に対応した時より本人の参加態度に変化があったというコメントを残していることもあった。様々な問題がある中でも日本語チュートリアルを実施する意義が指摘できるように思われる。この節で述べたことを踏まえて次の節では,日本語チュートリアルの意義をまとめて述べたいと思う。3.1 留学生にとっての日本語チュートリアル来訪した留学生にとっての日本語チュートリアルの意義について考えたい。これまで述べてきたように,大学内の様々な箇所からそれぞれの日本語学習上の,あるいは日本語学習以外の相談を抱えてこの日本語チュートリアルに来訪したという側面から見れば,早稲田大学の学内における留学生教育の充実をボトムアップ的にフォローできる支援体制になり得るのではないかという意義を認めておきたい。早稲田大学(理事会)は2008年5月2日に「Waseda Next 125(理事会の基本的な考え方)」を提案し,重点施策として「グローバル・ユニバーシティとしてのWASEDA」の構築を謳いあげている5)。そして,留学生の8,000人計画やグローバル・キャンパスの形成などを中心に教育の国際化を掲げている。優秀な留学生が大学で学ぶ上で日本語チュートリアルのような包括的で個別的な支援サポートが充実すれば,こうしたヴィジョンの実現にさらに近づくことができると

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