●34 「日本語学習歴は3年目ということですが,読解力も高く,読み方に詰まってしまった漢字早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/25-37の対応の仕方は適切であったと思われる。「来訪者と『一緒に』相談内容や課題について考え『てもらいながら』,日本語チュートリアルを進めていく」といった基本的な図式が形成されたと言い換えてもよいだろう。留意しておきたいキーワードは,「(来訪者は)〜ができる。」という支援スタッフの評価づけである。これは実施記録の目的から考えると,来訪者の情報を許される範囲で支援スタッフが共有しようという意図で記載されるものであると理解できるが,中にはどうしても「指導者」のような立場で来訪者を観察してしまい,記録してしまうといったことがあるのではないだろうか。研究倫理上の許容の範囲で記録から事例を取り出すと,例えば次の例1は情報共有のための評価であると言えるが,例2はいささか振り返っておきたい事例である。例1 「(省略)日本語レベルがとても高いと言えます。他の学習者たちと組んで,活発的ママな会話を行いました。」もすぐにチューターに質問せず,自分で辞書を引いたり思い出すことで解決する姿勢が見られます。」例2 「……日本語がとても上手だったので,例を出すとすぐにわかってくれていた……」例1の前者は,日本語チュートリアルのその場での活動をどうするかの判断に使われている評価であり,活動の指示を行う上で必要であったと思われる。また,例1の後者も文脈に指摘されている自律的な態度を観察する上で評価した部分であると理解できる。一方,例2は,授業で使用しているテキストの質問に応じて指導的な対応になってしまった例であるが,その時の教育的措置が理解できたかどうかで終わっている。来訪者のニーズや期待に応えた面では特に問題があるわけではないが,支援スタッフ側にそれ以上の意識があったかどうかを吟味しておきたい事例でもあろう。この事実はこの事例に特化するべき問題ではなく,支援スタッフとともに教員全体を含めて日本語チュートリアルに関わる際に留意するべきことではないだろうか。3期に分けたうちの第1期に見られる特徴があった。それは,まだ来訪者の少ない日本語チュートリアルが大学全域に知らされていないだろうと推測して,広報や宣伝に関する提案を記載するといったものである。「支援内容を宣伝資料(ポスター)に乗せるのはどうか。」とか「(日本語チュートリアルが日本語学習の相談だけではなく,悩みや課題のサポートも行う場であるということを)留学生の授業を担当している先生方に宣伝してもいいと思う。」などといった提案である。始まったばかりのこの時期は,支援スタッフも教員スタッフも様々な部分で手探り状態であったが,支援スタッフの記録からもそのことはうかがえる。一つ興味深い事例に自律的な学習を支援するべきだが,自分の対応が本当にそのような対応になっているかどうか悩むという記事があった。資料1.にあるような留学生支援システムの理念を「概念化された理念」として持ちつつも,具体的な対応では出せていないといった状況である。第2期になると,「概念化された理念」も支援スタッフの中で幾分消化されてくるところがあり,対応の中で「段階的な学習計画」に言及しながら動くことができたり,「自律的な学習計画につながる目標シートの作成」や質問に応じて来訪者自身に「考えてもらう対応」が生まれていた。また,この時期には数多くの典型的な日本語学習の相談に対応しながらも,日本語学習の相談で終わって
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