早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●333つの役割の中で最も難しかったのはアドバイジングであったようである。留学生が持ち込む相中山英治/留学生支援システムにおける日本語チュートリアルの実施概要とその意義表7 日本語チュートリアルにおける支援スタッフの役割役割ナビゲーター日本語チュートリアルを訪れた留学生を学習リソース/留学サポートに導く。ニーズに沿ったリソースや情報紹介,専門家/専門箇所へつなぐ。計画的かつ継続的に学習リソース/留学サポートに導く。学習アドバイジングと留学生アドバイジング,学習に関する自己管理ツールの紹介など。アドバイザーリソーススタッフ自身がリソース(専門的知識・話し相手)になる。学習者や生活者としてのメンター的役割。リソースの検索・独自開発など。特集 教室中心主義からの解放/基幹論文内容キーワードつなぐ紹介する学習を支援する励ます相手になる探す・創る係箇所として,早稲田大学留学センター,同保健センター,同ライティングセンター,同国際コミュニティセンター,その他諸サークルなどとの連携を図っている。留学生の相談内容に応じて,そうした関係各所にナビゲートする役割が最も効果的に遂行されたようである。支援スタッフは,ナビゲート用に日本語チュートリアル・ワゴン内に各種資料を整理し,その準備に備えていた。支援スタッフ自身がリソースとなる役割でも後の分析で述べる問題以外は,支援スタッフの専門性や知識を発揮できた面があった。談内容は,喫緊の日本語授業の課題や宿題であったり,取り急ぎ作文を添削してほしいとか,スピーチ原稿を直してほしいとか,要望も何もなくただふらっと立ち寄ったりといった来訪者もいたので,相談内容から見てアドバイジングを施す機会を持てないこともあった。また,一口にアドバイジングと言っても,それを真剣に行おうとすれば専門的な知識や技術が必要になってくるし,留学生の心に触れるようなナイーブな問題にも触れざるを得なくなってくるわけで,そうしたことは今回の支援スタッフには荷が重い状況であった。こうしたことは,スタッフ・ディべロップメントの問題4)でもあり,別途留学生支援システム全体の中で考えるべき問題であると言える。以上の前提となる支援スタッフの役割を踏まえた上で,支援スタッフの対応方法の分析を試みてみたい。この分析のために日本語チュートリアルの実施記録を便宜的に3期に分けて資料を整理した。第1期(5月10日〜6月7日),第2期(6月10日〜6月28日),第3期(7月1日〜8月2日)の3期である。まずは全期を通して支援スタッフの記録に見られたキーワードから,日本語チュートリアルの中で基本的な対応の仕方が形成されていたのではないかということを確認しておきたい。全期の記録中に見られるキーワードとして,「(来訪者)と一緒に」,「(来訪者に)〜してもらった。」,「(来訪者は)〜ができる。」などといった表現が顕著であった。「一緒に」というキーワードはその中でも非常に目立つキーワードで,支援スタッフの対応が独りよがりなものにならないように,常に来訪者の相談に寄り添いながら進められた一つの証拠でもある。資料1.に記載のある通り,「個別的な対話を重視したピア・サポート」である日本語チュートリアルならではの特徴が現れているとも言えよう。「(来訪者に)〜してもらった。」というキーワードからは,支援スタッフの基本的な対応の中に留学生支援システムが理念として持っている「留学生の自律的学習の支援」が意識されていることをうかがわせるものである。何らかの相談内容に支援スタッフが主体的になって対応を施してしまっては,自ら問題を解決できるかもしれない留学生の可能性を閉じてしまうことになり,自律的学習の支援には結びつかない。また,支援スタッフが相談内容を吟味したり,支援の方法を探ったりする際の一つの手段として,来訪者のニーズや期待をまずは確認するという目的からもそ

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