●31中山英治/留学生支援システムにおける日本語チュートリアルの実施概要とその意義特集 教室中心主義からの解放/基幹論文習上の相談を中心に来訪した文学研究科,教育学研究科,商学研究科の1,2名ずつであった。商学研究科の相談では専攻を反映した「就職したい会社の社長宛てのメール添削」や「会社用履歴書の修正など」が見られた。他学部生の来訪者数は7名で少ないが,詳細を見れば,文学学術院(文化構想学部や第一文学部),政治経済学部,教育学部,理工学部とあり,日本語の相談を普段する場所もなく,行き場に困ったであろう留学生の姿が見えてくる。例えば,理工学部の学生では「ち」と「つ」の発音の区別や練習に関する相談であったり,政治経済学部の学生では「日本語の学習方法」に関する相談であったりした。来訪者の多かった別科生やSILS生などは日本語学習が単位として必要な動機を持つ所属学生であり,また日本語チュートリアルの開催場所にも近いこともあって,その点で他の留学生よりも来訪者が多いことは至極当然であるが,この他学部生のニーズといったものを今後いかに救っていけるかという点は,大学全体の留学生教育の観点から見た課題としても非常に重要な課題であると思われる。述べ人数が少ないからと言って無視できる問題では決してないだろう。早稲田大学は諸大学に先駆けて研究や教育の国際化を進めてきている先進的な大学であると言えるが,大学内部の留学生教育や留学生支援環境の十全な体制作りができてこそ,真に国際化された大学であると言えるのではないか。この所属や相談内容の他,集計ではレベルに関しても集計結果を出しているが,当初いくぶん予想のあった初級レベルの来訪者数などは特に目立った特徴が見られない。今回実施した春学期だけでは統計的な処理もできないので何とも言えない。今後,継続的に実績を積み重ねることによってさらにデータを増やし統計的な裏付けなどを施せれば,レベルに関する事実も指摘できるかもしれない。資料1.の「『留学生支援システム』および『日本語チュートリアル』の理念と支援スタッフの役割」の「Ⅰ.留学生支援システム 1.設置理由」にある通り,この支援システムの具現化である日本語チュートリアルは,「留学生の抱える問題を包括的に解決できる支援体制」の一環として位置づけられるべきものであり,そういう意味からすると,留学生活全般に関わる幅広い相談内容を射程に入れる必要があったかもしれない。ところが,相談内容の詳細を表5.で見てみると,相談内容の区分の中では「日本語学習」が80件と圧倒的に多かった。つまり,春学期の実施においては,大学生活上の悩みや日本語学習以外の相談は周辺的な相談であり,日本語学習は最も中心的な相談内容であったわけである。ただし,このことから短絡的に日本語チュートリアルの評価を下げるべきではない。ポスターやチラシなどによる広報や宣伝方法の影響もあるし,日本語教育研究科の大学院生が支援スタッフであることや開催場所が日本語センターである以上,留学生が期待する相談内容の中心が日本語学習の相談に偏ることはむしろ当然と言えば当然である。春学期の集計結果を真摯に受け止めるならば,日本語チュートリアルが資料1.の「2.設置理念」に謳われている「個々の留学生が自律的日本語学習を実現できる学習環境」として十分機能を果たせるべく十全な体制づくりを目指さなくてはいけないのだとも言える。相談内容で多かった日本語学習の相談は,大きく分けると次の3つであった。やはり留学生らは,日本語を使う(話す)機会を欲していることが如実にわかる結果であった。これは現在実施されている秋学期の中でも継続している来訪の理由となっている。厳密に言えば,「話すためにはどうしたらよいか」とか「話す相手を見つけるには何をしたらよいか」といった内容ならまさに相談と言えるが,日本語チュートリアルの場そのものを「日本語が使える(話せる)場」として来訪するのは相談とは言えない。こうしたことは支援スタッフも折に触れて,日本語
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