早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●20早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/7-23そして,留学生からの要望を受けとめ,わせだ日本語サポートや留学生支援システムも,その役割や在り方を柔軟に変えていかなければならないだろう。3.5.スタッフ・ディベロップメント上述のように,わせだ日本語サポートの運営に関わる支援スタッフは,日本語教育学を学び,研究している大学院生たちである。支援スタッフには,ただ支援活動を行う者としてだけではなく,同時に,実践研究に取り組む者としての目も養ってもらいたい。つまり,わせだ日本語サポートへの参加は,留学生へのピア・サポートを提供することが第一目的であるが,大学院生である支援スタッフの実践者・研究者としての自己成長を促すという側面もある。留学生と同じように支援スタッフも主体的に成長できる環境を整備しつつ,関係教職員によるスタッフ・ディベロップメントの体制を整えていくことが,大学院日本語教育研究科と連携している留学生支援システムの任務である。留学生は,自らの日本語学習についてよく考え,現状を正確に把握し,長・中・短期的な目標を設定し,具体的な学習計画を立てて実行し,振り返りを行うことが求められていた。同様に,支援スタッフは,留学生支援や日本語学習支援,日本語教育と自分との長・中・短期的な関係についてよく考え,留学生と対話しながら具体的な支援計画を立てて実行に移し,折をみて自己評価する姿勢を持つことが期待される。つまり,留学生と同じように,主体性をもって自己分析し,自己理解を深め,自己研鑽を積み,自己検証を行って自律した支援者を目指す。自律的学習の実現には時間がかかるのと同様に,自律した支援者になるのは容易なことではないが,単に誰かから答を教えられるのを待つだけではなく,常に高い意識を持って,学術的にも実務的にも,自分自身で考える支援者になってもらいたい。今後,支援スタッフ用ポートフォリオなどのツールを導入すれば,内省を一層促進し,自らの成長的変容をしっかり捉えることができ,自己成長の証とすることができるだろう。共に自律を目指す留学生と支援スタッフが異なる点は,仲間同士で助け合う仕組みがあらかじめ準備されているところである。支援スタッフにとって最も身近な支援リソースは,仲間である支援スタッフである。まず,支援スタッフの担当曜日ごとにチームがあり,取りまとめ役としてのリーダーがいる。毎日の活動の後には,その日の担当スタッフが全員揃って活動内容を振り返るリフレクション・タイムが設けられている。時に教職員も参加しながら,反省点や改善すべき点,良かった点について話し合う。また,毎回の支援内容は「サポート記録」として電子掲示板で共有し,全スタッフと関係教職員が閲覧・コメントできるようになっている。電子掲示板を介して,支援方法やリソース情報などに関するやり取りや議論もでき,次回からのサポート改善へつなげる。定期的なスタッフ・ミーティングや勉強会などの開催も有意義であろう。具体的な相談内容や支援活動の蓄積を踏まえて,支援リソースとしての「サポート事例集」や「支援ハンドブック」なども整備・拡充していかなければならない。個々の留学生ごとに適切な支援の在り方が異なるのは当然だが(浜田ほか2006),過去のサポート情報を参考にして現在の支援活動を充実させることはできる。多くの支援スタッフは,毎学期のように入れ替わるので,何らかの「拠り所」となるヒト・モノがないと新人スタッフは不安になる。もちろん,先輩スタッフやリーダーが後輩スタッフを支え,わせだ日本語サポート内部で支援活動のノウハウを継承していくことも不可欠である。支援スタッフが,わせだ日本語サポートの第一運営者であり,要石であることは,今

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