●18早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/7-23ら学習計画を立て,個人的学習環境を整えて学習リソースにセルフ・アクセスし,自律した学習者に育っていくのには長い時間が必要である。その成長ぶりは,学習アドバイザーから見てすぐに認識できるようなものではないだろう。特に,学習スタイルや学習に関わる信念といった部分は,容易に変わる性質のものではなく,学習アドバイザーといえども,安易に揺さ振りをかけるべきものではない。なぜなら,留学生にとっては,今の自分が持っている学習スタイルや信念が正解であり,それ以外は受け入れにくいからである。学習アドバイザーの目から見て,明らかに改善すべきような学習スタイルや学習方法であっても,無理やり変更させるのは留学生のストレスの原因になり,劣等感を植え付けるだけの結果に終わりかねない。学習スタイルや学習方法については,他にも選択肢があることを,折をみて紹介すればよい。焦らず,気長に待つことも,学習アドバイザーの仕事である。留学生自身が,試行錯誤の末に,自分で気づいて納得するまで待つ。学習アドバイザーは,すぐに留学生に変化が見られないからといって諦めることなく,嘆くことなく,常に遠くに自律的学習の実現を見据えつつ,繰り返しアドバイジングを続けていかなければならない。留学生にとって本当に必要なアドバイスなら,その重要性に気づく時がいつか来るはずである。今まで日本語学習に関するアドバイジングについて述べてきたことは,留学生活に関するアドバイジング,すなわち,留学生アドバイジングにも当てはまる。まず留学生が自分自身の置かれている状況を分析・把握し,自己実現のために必要な人的・物的サポートに関する情報を収集し,個人的修学環境を構築して継続的・計画的にサポートを活用する。留学生アドバイザーは留学生本人が留学生活を自己管理していけるよう,過不足なくアドバイスを提供する。日本語学習に関する相談であれ,留学生活に関する問い合わせであれ,アドバイジングはコーチングやカウンセリングと共通する部分が大きい。どんな相手でも受容し,共感を示す。どんなに無理のある主張でも傾聴し,承認する。努力した点や良いところを拾い上げ,称賛する。相手に元気がないようなら,励ます。問題点を明確に意識させ,解決方法を見つけさせるためには,相手本人によく考えさせ,意見を引き出す質問力が重視される。相手が解決策を見つけられなかったら,解決につながる手掛かりを複数提示し,選択させる。いずれも,アドバイジングにも通じる基本姿勢であり,アドバイザーに求められる重要な資質である(井上1999,横田・白□2004)4)。3.4.日本語学習リソース留学生支援システムにおいて,日本語学習リソースとみなされるヒト・モノの範囲は非常に広い。わせだ日本語サポートも支援スタッフもすべて学習リソースである。支援スタッフによるピア・サポート,スタッフとの対話,スタッフの持つ日本語そのものや各種リソースに関する知識,自己管理ツールやその活用方法に関する説明など,すべてが留学生のための日本語学習リソースだと考えられる。留学生にとって,留学生支援システムへの最初の接点となる支援スタッフは,最も身近で頼れる特別なリソースである。現時点(2011年12月現在)において,支援スタッフはすべて日本語教育学を専攻している大学院生である。留学生と同じ学生という立場から行うピア・サポートが大原則であるが,日本語教育や日本語学習に関して各々の支援スタッフが持つ専門的知識や経験も貴重な学習リソースであり,それらを活かした支援もある程度は期待される。日本語そのものを教えることは本務ではないが,留学生がセルフ・アクセスすべき学習リソースがどうしても他に見つからない場合には,最終手段として,支援スタッフが学習リソースの役割を果たすこともあり得る。もちろん,あくまで各々の
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