●193齋藤智美/思わず何かひとこと言いたくなる仕掛けエッセイ&インタビュー/日々こもごもり方など様々に意見交換がされてそれなりに充実していたように見える場合でも,話し合い後にこの生教材を参考として読んでみると,またそこから自然と意見交換が始まります。「二次元に嫁いるから無問題」などという書き込みに爆笑しながらの,緩くリラックスした二次会的な話ですが,その前に意見交換したことを振り返りつつ話せるようです。また,あまり話し合いが活発ではないときにはこの生教材を挿入すると,クリティカルなコメントが出やすくなる印象があります。しかしこれも,生教材を出すタイミングを誤ると,その内容に同意して終わりとなりかねません。またネット上での他者の意見を参照することが,レポートや作文を書く際に剽窃するようなことにつながらないように,注意をしなければならないと考えています。つまり,自分の頭で考えて表現する機会を失しないように,授業の流れと反応を見る難しさは,毎回の課題です。基本的に生教材は加工しないで用いるものですが,2ちゃんねるのスレッドは,1つにつき1000のレスが出来るようになっていますので,スレッドの本題である記事とともに10から20ほどを抜き出して,教室に持ち込んでいます。また,2ちゃんねる独特の言い回し(乙,ネ申,顔文字)や,書き込みに多い表現(〜だよね,〜のか,〜だな,〜だしな,〜なんじゃね)などは,事前に解説が必要かと考えていたのですが,大抵は,書き込みの内容そのものに集中するので,細かな表現などは気にならないようです。内容そのものに焦点を当てたいので,それはそれでいいと思うのですが,本来の活動の妨げにならない程度に,これらの表現,同意や軽い反論,納得などをとりあげることもあります。以前,読んですぐにこれらの表現を取り出して扱ったところ,それまで抱いていた様々な終助詞についての疑問が噴出して,その時間にするべきことから大きくそれてしまったことがありました。しかしどうやら,表現に引っかからないほど,書き込み自体がもともと内容に注目するように引きつける力を持っているようです。このあたりは個人的に興味があり,調査してみたいと考えています。新聞や雑誌の記事というのは,ある意味,静的なものであるのに対し,書き込みは推敲なしで,書き込む人の考えがダイレクトに短く応酬されることから動的とも言えるかもしれません。そしてそれが教室活動の活性化を促すのではないかと考えています。また,書き込みの参加者は匿名ですが様々な年齢の老若男女の可能性があり,ひとつのトピックに対して多様な視点からの意見が見られるのも特徴の一つです。意外な方向からのコメントが思考の枠を広げる,というと大げさな感じがしますが,要するに,盛り上がる。盛り上がるというのは,思わず自分も何か言いたくなる状態で,身近に感じにくい社会問題がトピックの時は特に,そのような状態を求めたくなります。実は昔々,『電車男』が出版された日に,始めの数ページをあるクラスで紹介したことがありました。授業の一環ではなく,休み時間に軽く紹介するつもりでした。しかし,驚いたことに,彼らは何気なく目を落として読み始めると,貪るように,辞書に手をかけることもなく一気に読んでしまったのです。語彙も,文型も,馴染みのないものが多く,少し解説してからと考えていたのが,何もなしに読んだ後,一斉に「続きが読みたい!」と大騒ぎでした。続きは本屋で買ってください,としたのですが,翌日,ほとんどの人が買って読んでいました。ここまで夢中にさせるのは,内容の面白さもさることながら,短いレスの応酬とその臨場感,共感にあったのではないか,と思います。そのことを思い出し,生教材として2ちゃんねるの書き込みを用いてみたのでした。2ちゃんねる,というと,ひきこもりやニートの巣窟,犯罪の温床のように見る向きもあるようですが,多
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