早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
194/222

●192齋藤 智美早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/192-194◆◆この度「私の工夫・私の失敗」というお題をいただき,すぐに頭に浮かんだのが生教材の扱いでした。この貴重な機会に日々の試行錯誤を書いてみます。□咤ご教示いただければ幸いです。さて,生教材についてです。中上級の教科書本文では「少子高齢化」「未婚・非婚」「遺伝子操作」「環境汚染」「食生活」「死刑制度」などの社会問題がテーマとして扱われていることが多く見られます。それらはまさに社会問題として,深刻なものとして,中には自虐的に書かれているものもあり,精読するうちに暗い気分になってしまうことも少なくありません。そしてこれらをテーマにして話し合い,意見交換をし,考えをまとめるというような活動の際には,生教材を用いることもまた少なくありません。新聞や雑誌の記事などが多いですが,書き下ろしの時点と現時点での社会の動きとを関連づけて,語彙や表現とともに学ぶ助けになっています。しかし,提示の仕方が上手くないのか,実際に使用すると教科書の延長線となってしまうことがあり,生教材ならではの新鮮みを活かすような工夫が必要だと感じていました。また,学生同士の意見交換では,このような社会問題にそれほど興味を持てない場合があるのに加えて,属性が似ているからか視点が広がりにくく,当たり障りのない,惰性の議論のようなものになることがたまにあります。このようなとき,議論が活動の主目的ではない場合でも,せっかくですから,何か自ずと言いたくなるような場を作りたいと思うのです。思わず何か,ひとこと言いたくなってしまうような場を仕掛けたい。読解としても,能動的に内容をとるような場を作りたい。そのようなときに,2ちゃんねるの書き込みを用いています。例えば,教科書で「少子高齢化」が主要テーマである章では,『男性の3分の1,女性の4分の1が生涯結婚できない時代に』という日経ビジネスの記事を取り上げたスレッドを用いました。始めの方は,「結婚できないわけじゃなくて 興味がないだけですから」「昔は結婚しないと世間体がアレだったけど 今はそんなことないしな」などと書き込みが続きます。そして「もはや手遅れと言わざるを得ない」とのコメントともに未婚率の推移グラフが添付され,それに対して「仲間が1/3もいるんだから心強い」「みんな結婚しないほうが裕福に暮らせることに気づいたから・・・ もう何やっても少子化の波は止まらない」と続く。そして,なぜこうなったのか,非正規雇用の問題や親の義務についてなど様々な考察が数行でやりとりされ,そのうち,「ちなみに14歳以下の出産は増えてるんだぜ」「フランスは出生率は改善したけど結婚率は下がってる。男が養う必要なし,事実上国が養う」「つまり,シングルマザーで出生率を改善させたのか 要チェックやな」など,社会保障に話題が移っていきます。学生同士の話し合いでは,結婚適齢期や家族の問題,社会のあ思わず何かひとこと言いたくなる仕掛け―“2ちゃんねる”で教室をくすぐる―

元のページ  ../index.html#194

このブックを見る