早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●17中2011;小嶋ほか2010;菅原2010;関2006)。黒田史彦/留学生支援システムの構図特集 教室中心主義からの解放/基幹論文く,留学生の自律的学習が首尾よく実行できるように支えることである。留学生は,自分自身と日本語との関係を見つめ直し,自らの将来像を具体的に描き,その具現化に向けて日本語学習をデザインし,着実に学習を遂行することによって,自らの学びを自己管理する姿勢を身に付けていくこととなる3)。学習アドバイザーは,留学生からアドバイスを求められた場合にのみ,具体的な学習方法などを(指導するのではなく)提案する。学習に関する決定権は,常に留学生が持つ。学習アドバイザーは,必ずしも日本語教師である必要はないが,日本語の学習方法(学習ストラテジー/スキル)や問題解決方策について広範な知識を備えていることが望ましい。学習動機の維持や学習を継続できるよう励ますことも,学習アドバイジングの一部である(青木2001,2010;青木・田日本語学習を着実に一段一段ステップ・アップさせていくためには,学習が計画通りに進んで目標に近づいているか否かに関して,定期的な自己評価を行うことが効果的である。いつ振り返りを行い,どのような観点から自己評価を行うべきか,学習計画を実行に移す前にあらかじめ決めておくことが望ましい。評価方法については,自分だけが評価することもできれば,周囲の他の人に客観的に評価してもらうこともできる。いずれにせよ,評価基準を自分自身で決めておくことが肝要である。計画が予定通りに進んでいる場合は,新たな目標を設定し,実行する。計画が予定通りに進んでいない場合は,その理由を検証し,学習計画を軌道修正していく。必要があれば,目標そのものも見直せばよい。学習アドバイザーは,学習計画の立案,実行,記録,検証,計画の再設定といった学習サイクルの自己管理が有効であることを紹介し,留学生本人が自らの学びを継続的に管理できるよう手助けする。その積み重ねが,いつか自律的学習の実現につながるはずである。初めて試みる者にとって,学習を自分自身で適切に管理することは非常に困難である。その負担を軽減するひとつの方法として,自己管理を容易にするツールを準備し,その活用方法を紹介することが挙げられる。わせだ日本語サポートでは,物的支援の提供の一環として,日本語学習と人生設計とを有機的に結びつける「未来マップ」,長・中・短期の各段階における学習計画を相互に関連付ける「学習計画シート」,日々の学習の様子や成果を記録する「学習記録シート」,学習計画が一段落した際に内省するための「振り返りシート」が準備されている。また,今後は,留学生が自らの日本語能力について現状や伸長を把握するための「能力グリッド」や「レーダーチャート」,目標への到達度が明確に分かる「ラーニング・ラダー」など,視覚に訴えながら学習を促進する自己管理ツールの開発にも力を入れ,将来的には,ポートフォリオのような総合的な自己管理ツールに仕立て上げていきたい(青木2010)。自己管理ツールは,その有用性についての期待は大きいのだが,実際に留学生が使用する際の負荷も極めて高い。劇的な効果とは言えないまでも,留学生にとって何かしら目に見えて実感できるメリットを伴わない限り,自己管理ツールの活用は伸び悩む。どうしたらツールを活用してもらえるか,いかに活用を継続してもらえるか,解決すべき課題も多い。もちろん,自己管理ツールを使用することが目的化してはならない。ツールの利用は,あくまで希望者だけに限定すべきであり,支援スタッフや教職員が使用や作成を義務づけたり押し付けたりすべきではない。留学生の主体性に任せ,使いたいと思う留学生が,使いたいと思う時に,試しに使ってみれば十分である。自己管理ツールを活用してみて,何らかの効果が感じられたのなら,その後の継続利用につながるであろう。学習アドバイジングは根気の要る取り組みである。留学生が現状を自己分析し,自問自答しなが

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