早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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CD●180(2) ナラティブを基盤とした対話の過程で,各自が経験している実践の状況を確認しながら話題を4.まとめと今後の展望早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/174-181授業内に何が起こっているかは外からは見えにくい。教師自身によるリフレクションが有効であることは意識していたが,コースと並行して異なるコースを担当する者同士,リフレクションしながら対話する機会を持つことにより,多くの示唆を与えられた。特に,担当コースの学生は,アイデンティティに触れる自己開示をして話し合いを進め,その内容を収束させ書く作業を通して成果物を完成させる。教師らが自らの授業を開示し自身の問題点を話題に挙げて解決策を探る作業は,授業の疑似体験となり,特に授業を進める教師の立場の重要性を,再認識した。複数の担当者が関わるコースでは,コースの理念,目的,目標設定について共通する言葉を持つために,ティームのコミュニケーションの重要さは十分認識していると思っていたが,授業運営の理念や指針の共有は,学習者との連携という連鎖の中で考えていく必要があることに思い至った。また,授業で,他者との関わり合いを通しても一見変化が起きない学習者や,授業の流れに乗れないことを訴える学習者について,その問題の所在を明らかにするためには,本人と向き合った上での対話が欠かせないことを再認識した。今回の座談会を経て,教室実践の問題解決や向上に,こうした教室当事者を超えた第三者との対話を通して自らの実践を開き,リフレクションを行うことの有効性が実体験できた。上記の記述から,Aは,現在担当する授業内の出来事を,異なる科目担当者らの経験と照らし合わせながら,担当者同士の相違,コースの枠組みを再認識し,授業内での教師の役割に対して,気づきを得たことが確認できる。リフレクション後,Aは現在進行中の実践に還元するために,話し合いの中に解決の端緒を見出そうと試みており,それは現在担当している実践の課題の解決とともに継続した行為となることを述べている。また,B,C,Dは,Aの話題提起から,自らの実践に対して,再吟味をしたり,意味づけし直したりしていることが確認できる。以上,2011年度秋学期CJLにおいて,現在担当する授業について,異なる授業担当者同士による「協働リフレクション」を試み,うち1名の授業と状況に対するグループ対話の一端を紹介した。以下,今回の試みから,筆者らが見出したことを整理し,記述する。(1) 互いの実践の内実や実践に対する考え等の理解には,担当授業の状況を丁寧に語り合い聴き合うという,ナラティブを基盤とした対話が不可欠である。また,それらは,回数を重ねて行うといった,継続性が必要である。進めることで,各自の実践に対する認識や経験の相違が明確になる。その相違により,課題の解決や問題の所在を理解する対話が始まり,実践に対する考えや立ち位置等の意識化を生む。(3) 異なる担当者同士の協働リフレクションは,ティームティーチング内の担当者同士の場合とは異なり,実践に対する共通点を探ることからスタートする。その際,授業の構成要素を表すキー概念を手かがりに対話を展開していくと,各自の考えが交差しやすくなり,位相が意識しやすくなる。結果的に,各自のリフレクションが促進されやすくなる。(4) この試みでの体験を各自がリフレクションすることによって,各自の教育観や実践のあり方に関連付けやすくなる。それには,対話後の記述が有効である。さらに,記述されたものを話し合った文脈や現在担当する実践に即して再度確認し合い,意味を明確にする過程が,各自の課題や問題に接近しやすい。(5) この試みに対して筆者ら4名は,担当する実践の状況と共通する学びを包含しているという認

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