●177今井なをみ,他/教師同士による協働リフレクションの試みエッセイ&インタビュー/センター最前線 D :書くことを目的としない? では書いたもの,プロダクツの意味は何ですか。 A :……何ですかね。 B :Dさんの授業のプロダクツも,書いたもの,……エッセイですよね? そのコースでの書くことの目的は何ですか。 D :自分の頭にあることが書くことで表出し,もう一度自分の中に入って行く。その意味で,書くことは目的だと言えます。私自身は,自分を見つめることそのものは,授業の内容で,授業の目的とは言えない。クラスの目的は,それを日本語として産出し,共有することです。だから,学生から出てくるプロダクツは授業の目的になる。考える手段は,いろいろあっていい。産出物としての日本語はそれを伝え合う拠り所の一つです。 A :それを作ることが目的なんですか。 D :作ることが目的というよりも,クラスの話し合いを踏まえて推敲のプロセスを通すことで,少しずつできていきます。そして,出てきたものをまとめたらこうなったという結果になるという意味です。 B : Cさんも書かせていますが,ゴールとプロセスは? C :最後は文集にします。ちょっと話題がずれますが,私は,学生がコースを取る前提は,その学生自身が変化することだと考えています。文法の授業でも,知らなかったことを知る,できなかったことができるようになるという変化があると思います。この授業でも,書くことは,「今まで文字にしたことがなかった自分から,文字にして整理した自分に変わる」ということが前提です。2.4.3 教師から見た「学習者Lの問題」と状況 B :ところで,「毎回,同じことの繰り返しで意味がない。」という意見を出した学生Lさんのことについて少し伺いたいのですが,この学生は 読み合いや話し合いに,意義が見いだせないということでしょうか。 A :Lさんは,単に億劫なのかもしれません。同じことを繰り返すのは面倒臭いっていうぐらいの意見だったと思います。Lさんは,単に時間の無駄だと思ったと……。まあ,「絶対これには意味がないんだ!」というような強い言い方ではなかったですけど。(略) C :積み上げ式でない分,授業の流れを理解して,学生が満足しながら進んでいけるようにするということが教師の創意工夫な訳で……。Lさんが違和感を持ったという,そのことを考えてみたいですね。どうしたら,コースの流れが学生に受け入れられるかということを。 A :その時の同僚の授業記録によれば,「同じテーマについて話し合って,エッセイの内容を書き直すということはあまり意味がない。それに,たまたま同じ授業を取っただけのメンバーに,何でプライベートなことまで話さなくちゃいけないのか。しかも,これはこうした方がいいとか,これはどういう意味?というようなことをあれこれ言われたくない」というような発言もあったようです。 C :だとしたら,この授業が提示したステップがうまくいっていないのだから,教師は,手を打つ必要があるんじゃないでしょうか。
元のページ ../index.html#179