●1693.活動型クラスにおけるズレの事例森元:「私のこと・あなたのこと2」2レベル 週5コマ×15週(1コマ90分),学習者数7名自分の「考えていること」や「話したいこと」を日本語で表現し,相手の「考えていること」を日本語で理解することを目的とする。自分の経験,興味があること等をテーマにして,キーワードを使った口頭発表や作文の執筆を行い,それらを通した話し合いを重ねながら,お互いへの理解を深める。他の人へのインタビューやまとめとしての文集作りの活動も行う。そのために,必要な日本語の表現を学習する。以下には,各クラスにおける学習者と担当者のズレに着目した(1)〜(4)の4つの事例と,事例の中に見られるズレについて執筆者3名で話し合ったことを記述する。(1)テーマ設定に関するズレ【事例】「インタラクティブ日本語2」では,各学習者が設定したテーマに従って作文を書いたりディスカッションをしたりしながら,各テーマに対する自分の考えや理解を深めていくことを目指す。したがって学習者によるテーマ設定は活動を進めていく上で重要な意味を持つ。しかし,テーマ選択において担当者と学習者の意識のズレが生じることがある。このクラスでは「私の疑問・私の答え」というテーマを設定し,学習者たちは日本において疑問に思うことを自分のテーマとして取り上げ活動を進めていくのだが,その中で例えば「どうして日本人はみな電車の中で席を絶対に譲らないのか」というステレオタイプになりがちなテーマ選択をする者や,「携帯電話会社のCMに起用されている犬について知りたい」というような学習者自身との関わりが見えにくいテーマ設定をしようとする者が出てくる場合がある。そのような時,担当者は学習者と関わりのある,よりよい(と担当者が考える)テーマに接近させようと苦慮し,そのための様々な工夫をする。携帯電話会社のCMをテーマにした学習者は最初,そのCMのストーリーや出演者についてインターネットで調べることで満足し,それ以上の考察はなかった。鴻野は,そのCMを見てどう感じるのか,CMにどのような効果があると思うか,またそれらについて日本人にもインタビューしてみてはどうかなど,なんとかしてテーマを学習者に引きつけようとしたがあまり効果がなかった。しかし,次第にクラスメートたちが「あなたは何が知りたいのか。こんなテーマに持っていったらどうか」とテーマや考察の仕方について説得を始める姿が見られるようになった。この学習者は最後までテーマを変えることはなかったが,最終レポートには自身の専門(経営学)と絡めたCMのプロモーション効果についての記述が見られた。【担当者の思い】鴻野は,学習者をよりよいテーマに近づけようとする一方で,担当者がいいと思うようなテーマに学習者を誘導しようとすることは,実は担当者が望む「活動型優等生(=担当者の思いを読み取り,その思惑通りの発言や行動をすることで,担当者に認められようとする学習者)」を作り上げようとする教師主導の行為ではないかいう疑念を抱いていた。また,何の問題もなくうまくテーマが決まったり,活動がズムーズに進んでいったりした場合でも「本当にこれでよかったのか,実はあまり深まっていないのではないか」という疑問を感じていた。鴻野豊子,他/活動型クラスにおける担当者と学習者のズレについてエッセイ&インタビュー/センター最前線
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