●161「活動型」担当者からの声日本語教育研究センター(以下,センター)には,2011年度秋学期現在で,1レベルから7レベル1)まで12の活動型科目(以下,「活動型」)のクラスが開講されています2)。「活動型」は,学習者一人ひとりが興味・関心のあることを自分のテーマとして設定し,それについて話し合ったり,文章に書いたりする活動を通して日本語を学ぶ科目です。原則として,テキストは使用しません。センターにおける「活動型」の考え方は,次のとおりです。活動型クラスでは,参加者一人一人の課題を日本語による議論を通して検討しますが,このことは,3か月でこんな能力がついたとか,こんな知識・技術が身についたということを意味しません。むしろ,そうした日本語能力の向上をめざす能力主義の考え方から一定の距離を置くことで,大学における自分自身の学びの意味を考えつつ,それを表現化するという成果プロセス主義の立場をとります。(2011年1月26日「活動型科目の担当者募集について」より)また,授業はティームティーチングで行われ,担当者数は2011年度秋学期現在で延べ29名にのぼります。センターの「活動型」は,1988年以来,幾度かの科目名改訂を経ながら,担当者が創意工夫と試行錯誤を重ねつつ発展し,実に多種多様なクラスが展開されてきました。けれども,クラスを越えて担当者同士がつながり,活動型実践における経験を共有する機会はこれまでなかなかありませんでした。そこで,今回「活動型」担当者の方々に座談会を行っていただき,経験の中における楽しさ,悩み,葛藤,発見を語り合い,共有し,発信していただくという試みを行いました。この試みには,「活動型」担当者間の相互交流だけでなく,紙面を通した読者との相互交流が生まれ,豊かな議論へと発展し,新たな実践や実践研究が立ち上がることへの期待もこめられています。以下にお届けする三編は,10クラス11名3)の担当者が三つのグループに分かれ,座談会を積み重ねることによって生み出されました。一編一編において,一人ひとりの「活動型」担当者の思いや考えをのせた声が行き来し,曲折し,交じり合い,三編三様の切り口と語り口で活動型実践が内側からあぶり出されていきます。一つ目(李ほか)では,これまでなかなか記述されることのなかった活動型クラスにおける楽しさが教師の側から描かれています。二つ目(鴻野ほか)では,活動型クラスの担当者がしばしばぶつかる学習者との間の「ズレ」を具体的事例とともに考察しています。三つ目(今井ほか)では,担当者の話題提供をめぐり,「協働リフレクション」の試みを紹介しています。一つの「活動型」のコースが内包する課題が,対話を通して浮き彫りになっていく様が報告されるとともに,「協働リフレクション」が「実践研究」の萌芽となる可能性が示唆されます。活動型実践をめぐり幾重にも重ねられる声に,ぜひじっくり耳を傾けてみてください。 1) 各レベルの区分は以下のとおりである。1レベル:初級前半,2レベル:初級後半,3レベル:初中級,4レベル:中級前半,5レベル:中級後半,6レベル:中上級,7レベル:上級前半,8レベル:上級後半。レベルは,プレイスメントテスト(J-CAT)の点数により判定される。履修者は,判定結果を参考に,レベルに関係なく科目を選択できる。 2) 2012年度からは,「活動型科目」は,「テーマ科目」に統合される予定である。「テーマ科目」とは,日本語・日本文化・社会に関するテーマを設けて日本語を学習する科目である。特定の教材や技能にとらわれない多様な内容や形式を持つ授業が行われている。 3) 複数のクラスを担当している担当者を含む。
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