早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●158宮□ 七湖1.本科目設置の経緯とねらい2.科目と講義の概要科目名:ケースメソッドで伸ばす問題発見解決と表現力6-7実施年度・学期:2010年度春学期,2010年度秋学期,2011年度春学期クラス人数: 2010年度春学期(21名),2010年度秋学期(21名),2011年度春学期(16名)本科目のキーワードとなっている「ケースメソッド」とは,米国の経営学大学院において開発されたもので,ケースに書かれている内容を討議する形式で進める授業のやり方を指す(竹内 2010)。筆者は2010年1月に行なわれた,日本語教育学会教師研修会「ケース(事例)で学ぶビジネス日本語教育―問題解決型討論活動のデザイン―」を受講し,初めてケースメソッドについて知った。受講後,このメソッドが目指す「問題発見解決能力」の育成は,大学等の高等教育が目指すべきことでもあり,留学生の日本語教育にこのメソッドを援用できないかと考えた。このように考えたのには,筆者の留学生への日本語教育に対する問題意識がある。筆者はこれまでに,留学生のレポートなど文章課題遂行過程を研究してきた。この研究を通じ,留学生が文章課題を遂行するためには,語彙や文法といった言語構造の知識のみならず,留学生が個別の状況を分析し,解決方法を選択していく柔軟な思考が必要であることがわかった。そこで,筆者は留学生が現実に遭遇しそうな問題のケース教材を開発し,問題発見解決力とコミュニケーション能力を育成することを目的とした,授業を行なうことにした。教師研修会における「ケースメソッド」との出会いと,日ごろから抱いていた留学生への日本語教育に対する問題意識によって,この科目は誕生した。本科目の対象は,上級の日本語学習者である。全15回の講義中13回は,ケース教材をめぐる討論を行なった。第8回講義では自分のケースを書くための準備活動を,第15回講義では全体の振り返りを行なった。ケース教材は,次のような構成になっている。(a)問題が発生するまでの経緯が主人公の心情とともに書かれた物語文(A4用紙1枚),(b)ケースの内容理解を確認するための質問,(c)ケースの問題発生の原因や解決策を考えるための質問,である。ケースの内容は筆者がこれまでの日本語教師経験の中で,学習者や周りの人から見聞きした内容や,筆者自身が遭遇した問題をもとに作成した。イメージをつかんでいただくために,ケース教材のあらすじを2例紹介する(ケース教材例1,ケース教材例2)。早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/158-160問題発見解決能力を伸ばすことを目指した日本語の授業

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