●149川名恭子,他/初級日本語クラスにおける教師間シナジー特集 教室中心主義からの解放/寄稿論文き込みと自己表現を意識した活動に修正している。教師間の情報交換によって,「日本語かきこ」の役割をコミュニケーションツールであると捉え直し,「クラス内でのコミュニケーションを活性化することがお互いの理解を深め,ひいては学生のもっと表現したいという気持ちを引き出してくれることにも改めて気づかされた」と述べている。水上は当初自由な書き込みを優先していたが,さらにそこに練習重視という視点を加えている。開始時は楽しく自由に書き込むことが教室内の人間関係をよりよくするだろうと考えていたが,それに文法重視の要素を加えることで,「この活動は活用方法次第で,様々なアプローチから工夫できると感じた」と述べ,「日本語かきこ」の活動としての可能性に言及している。この2人のほかにも情報交換をきっかけに方針転換したのが宮武である。ランチ会をきっかけに教師間の情報交換は日常的に行われるようになったが,宮武は先の2人とは異なり,徐々に新しい取り組みを試みるようになっていった。宮武は学習項目との関連付けを意識した授業を行っていたが,この活動でほかの担当者による自己表現を重視した実践方法を知り,「学生の,こんなことを伝えたいという気持ちを原動力にすることの大切さに改めて気づいた」と述べ,自身もFB方法を変えてみることで学生の積極性を促すことができたと3–2–3で報告している。その一方で,川名,齋藤,田中の3人は開始当初から最後まで活動の目的意識が変わっていないことが図4に示されている。川名は自由な書き込み,齋藤は学生間のコミュニケーション,田中は自己表現を重視し,終始一貫していた。だが,3人の担当者は本当に全く変化しなかったのだろうか。川名はランチ会には出席しなかったが,常に周りの担当者と情報交換を行っており,「今回は話す活動が中心になってしまったため,来期は書くことに重点を置いた活動を実現させたいと思い,他の教師と情報を共有する目的で勉強会に参加するようになった」と述べている。川名は,活動の活性化のために情報交換を重ね,自らの活動目的を達成しようと模索しており,今回大きな方針転換はしていないが,来期を見据えた動きをしていた。齋藤は,情報交換から各担当者の多様な取り組みや捉え方を知り,それによって自身を振り返って「方法のみならず,自分が何を重視して実践しているのかが明瞭になってきたように感じる」と述べている。その結果,「やりとりする話題として書き込みを扱うことをベースに,既習項目を使用することの意識を明確にする段階を作るなどした」というように川名同様,方針転換はないが,自身の立場を改めて認識した上でFB方法の幅を広げている。田中は,コーディネーターであったことからシラバス作成の時点から方針が揺らぐことはなかった。だが,情報交換の場における担当者らの真摯な姿勢を目の当たりにし,「自らの授業を開示し,振り返るという一連の流れは,最終的に担当者間の連帯意識を強め,また,自身の教育観を改めて見つめ直す良い機会となり得る」と考えるようになった。自身もほかの担当者からFB方法について少なからず刺激を受けていた。ここまで,図4から見えてくるFB担当者の変化について考察してきたが,活動を支える火曜日担当者の3人はどうだったのだろうか。活動開始当初,3–2–2の記述に見られるように火曜日担当者は学生の姿勢があまり積極的でないことに疑問と不安を感じ,自身が担う役割について考え始めていた。そのような中で開催されたランチ会には,佐藤や渡部のような火曜日担当者も自主的に出席していた。このことからもFBを担当しないクラス担当者も「日本語かきこ」の活動報告に興味を持ち,ランチ会をその実態を把握するための機会と捉えていたことが窺える。佐藤はその場で自身の書き込みがクラス内の共有トピックとして機能しているという報告を受け,その後は「FB時のクラスにおける話題提供を目指すことにしたことで,自身の役割が明確化でき,モチベーション
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