早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
15/222

●13図5の概念図では,留学生がポータルを経由してアクセス経路を通り,日本語学習リソースにセ黒田史彦/留学生支援システムの構図特集 教室中心主義からの解放/基幹論文ルフ・アクセスしている。注意すべきは,アクセスを表す矢印の描き方である。太い矢印は,留学生が学習リソースを頻繁に利用していることを表している。×印の付せられた矢印は,かつては利用していたが,現在は使わなくなっていることを表し,破線の矢印は,今はまだ利用していないものの,将来的に活用しようと計画されていることを表している。言うまでもないことだが,この図には描かれていないものの,まったくアクセスしない学習リソースも数多くある。個人的学習環境は,留学生が自分だけの日本語学習環境をうまく作り上げたモデル例である。同様に,留学生が今の自分に最も相応しい留学生サポートを選択し,セルフ・アクセスを実行している場合は,自己実現のための理想的な「個人的修学環境」がデザインされたと言える。このように,日本語学習リソースや留学生サポートをいかに計画的に,継続的に活用し,自己成長のための個人的学習環境や個人的修学環境を築き上げていくのかについて,留学生は,試行錯誤を繰り返しながら,十分に検討し,主体的に取り組んでいかなければならない。2.6.自律今の自分にはどのような日本語が必要なのか,将来の自分は日本語とどのように付き合っていくのか,理想的な自分を実現していくためには,どのような個人的学習環境と個人的修学環境が必要なのか,留学生は常に考え,行動しなければならない。長・中・短期的な目標達成のために,いつ日本語学習リソースにセルフ・アクセスして学ぶべきか,どんな留学生サポートにセルフ・アクセスしてサービスを得るべきか,どのリソースとサポートを組み合わせるべきか,いかなる個人的学習環境と個人的修学環境を設計すべきか,検討すべきは多岐に渡る。しかし,上述したように,セルフ・アクセスをするかしないかについての判断,あるいは,学習リソースや留学生サポートの取捨選択は,すべて留学生自身が最終的な決定を下すべきことである。個人的学習環境と個人的修学環境は,留学生が主体的にデザインしなければ実現しない。時に失敗することもあるだろうが,その失敗から学ぶことも大きい。むしろ,失敗を繰り返すことで,自分に相応しい学びと留学生活の在り方やその実現方法,自己管理の方法に対する理解が深まるとも言える。このように,自分の現状や将来についてしっかり自己分析し,自己理解を深め,いかに自己実現を可能にしていくのか,どのような学びを形成していくのか,自分自身でよく検討し,自らの判断で行動計画を立てて実行し,折をみて自己検証し,継続的・計画的に自己成長に努めることが自律であり,自律的学習であると考える。そして,まず自分自身のことを主体的によく考えることが,自律/自律的学習へ向かう第一歩だと言える。もちろん,常に何か行動するだけではなく,「ひと休みして息抜きをする」「今は何もしない」という選択や,よく考えた上で「今の自分には講義形式で受け身型の授業が必要だ」という判断も,留学生活や学びに対する自己管理の一部であり,自律性の発現として尊重すべきものである。2.7.ポータルを経由しないセルフ・アクセス留学生たちが日本語学習リソースの利用を始めるに際しては,まずはポータルをくぐり,学習リソースに関する情報を得て十分に吟味し,自分に最適な学習リソースへセルフ・アクセスすることが多いだろう。学習の進捗状況に合わせて,新たな学習リソースを探すためにポータルを訪れるこ

元のページ  ../index.html#15

このブックを見る