早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●1476名の担当者の意識は,「文型語彙」または「コミュニケーション」に注目するという2つに分類川名恭子,他/初級日本語クラスにおける教師間シナジー特集 教室中心主義からの解放/寄稿論文ととなった。他のクラスと同様に,川名のクラスでも学生は締め切り直前に書き込んでいた。当初予想していたことと違い,実際にはネット上での活発な書き込みや返信がなかったため,それを補うべく,書き込んだ内容をボランティアとの会話練習のテーマとして活用することにした。川名はランチ会に参加できなかったため,他の担当者との情報交換を通して方向転換することはなかったが,より積極的に授業に取り込む工夫を模索している。齋藤の担当クラスでは文型や語彙の練習としてではなく,書き込み内容をトピックとして扱い,教室内でやり取りを引き起こすことを目指していたが,それがうまく作用し,互いに関心を持って日本語でやり取りする場が自然と生まれた。しかし継続とともに,他クラスの学生の様子やFB方法など様々なあり方を情報交換するなか,もう少し文型に焦点を当てるべきか,そうするならどのように提示できるかを考え続けたが,結局,クラス運営上,大きな方針転換は行っていない。しかし,学生からの書き込みを待って返信するだけではなく,教師からも既習文型を使って話題提供的な書き込みを始めた。これによりFB時に,明示的にその文型表現を使う状況が生まれやすくなっている。田中も大きな方針転換は行っていないが,ランチ会や勉強会でのFB担当者らとの情報交換が刺激となり,ボランティアを含む学生同士のCourse N@vi上のやり取りが活発化できないかと考え,FB方法にさらなる工夫を重ねるようになった。FBで使用するシートは書き込みを載せるだけでなく,書き手の意図や気持ちを想像させる読解問題のように設問を作ったり,書き込みに返信するとしたらどのように書けばよいかを考えさせたりした。また,参加しているボランティアに,やり取りが続くよう何か質問を書いてもらえるように返信方法の工夫を依頼した。これは学生に時間的余裕がないとボランティアの返信にさらに返信をするのは難しくなるが,FB時や休み時間などに会話をするきっかけになっていた。以上の各FB担当者が,どのように「日本語かきこ」を捉え,そのクラスでの実践目的をどう調整していったかということを,活動のおおまかな流れに沿って表したものが図4である。開始前のできる。またそれぞれの下位に「練習重視」と「自由な書き込み」,「自己表現」と「学生間コミュニケーション」により注目するという4つの立場があり,図中に該当する教師名を記した。矢印はそれぞれの教師の意識の推移を表し,教師名の網掛け部分(例: 田所 )はその教師がランチ会に出席していたことを表している。なお,ランチ会時と勉強会立ち上げ時の矢印を囲んだ○印は教師の意識が変化するきっかけとなった時点を示している。また,直接FBに立ち会っていない火曜日担当者は,学生の反応や手ごたえが不明確な中で関わり方を模索していたが,このような情報交換の場において,それまで知り得なかった詳細な学生の反応を知り,活動の意義を確認している。小西はFB担当者と常に情報交換を行い,やり取りを活性化しようと「問いかけ」の形で書き込みをしていたが,学生からの返信はみられなかった。しかしその一方で,授業で書き込み内容を導入や会話練習・作文のテーマに取り上げることにより,活発なやり取りが生じると同時にクラスでの人間関係も深まり,「本当に言いたいことを伝えたい」という手ごたえを書き込みから感じるようになった。佐藤は,FB担当でなかったことから,自身の授業時には自分の書き込みに対する学生からの反

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