早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●146早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/139-152次に,火曜日担当者は開始当初,どのように活動に関わっていたのだろうか。渡部,佐藤,小西は毎週書き込みをし,学生への返信もするなど自主的に参加していた。数回の活動を終えた時点で,「期待したほど楽しんでいる様子が感じられなかった(渡部)」「教師が楽しみながら活動に参加する一方で,学生の反応はあまり熱を帯びたものでなかった(佐藤)」「書き込みの内容がだんだんマンネリ化してきた(小西)」と述べており,直接FBを担当しないことでより客観的な視点から学生の様子を観察していた。この段階でのクラス担当者は,前節で述べたような各自の活動目的のもと,実際「日本語かきこ」に参加している学生を前に,何がどこまでできるのか,どのようにすれば有意義な活動となるのか,周りの様子を窺いながら模索している様子がみられた。3-2-3 ランチ会開催とその後の工夫と実践各々が試行錯誤を続けている中,3–1で述べたとおり,担当者全体へのランチ会の呼びかけがコーディネーターからあり,まとまった人数での情報交換の場が設けられた。そこで改めて,状況について各々が報告し合い,他クラスの学生の様子,他クラスのFB方法を共有することとなった。学生の様子として,「他の学生の書き込みを読んでいない」,「締め切り直前に書き込みをしている」,「活動を課題と捉え,義務感で書き込んでいる」などが,問題や戸惑いとしてあげられた。また,FBの方法としては,文法や表記に焦点を当てた方法,やり取りを重視する方法,FB用印刷物のレイアウトなどについて紹介された。これらは議事録としてまとめられ,コーディネーターからクラス担当者全員宛てのMLで配信された。このランチ会の実施は,各担当者がFB方法を改めて再検討するきっかけとなっている。そして,各クラスの実践に反映されることとなった。このような情報交換から,その後工夫し取り組んだ実践は,次のとおりである。田所はランチ会への参加によって,元々SNSのような気楽さが想定されていたことを知り,返信スタイルや働きかけについて方針転換を行った。例えば,授業で普通体導入後,ツイッターでやり取りするような文を,普通体を使って書き込むよう学生に勧めることにより,積極的に会話のような書き込みを試みる学生も現れた。また,教師から学生への返信のスタイルも,日本語のクラスの仲間としてのものに変え,コミュニケーションを意識したコメントや返信をするようにした結果,思ったことを自由に話せる雰囲気ができた。宮武は当初,文法・語彙に焦点を当てていたが,情報交換を通してコミュニケーションの要素を加える必要性に気づき,より自由なコミュニケーションの機会を増やすことを試みた。具体的には,書き込みへの返信を,既習文法・語彙を意識せず率直な感想を述べる方法に切り替えた。また,FBで書き込み内容に関する自由な会話の時間を増やした。このような工夫を行ったところ,FB時に学生自ら話したい話題を提示してくることが多くなり,より活発な雰囲気で活動をすることができたと振り返っている。水上のクラスでは,文法・語彙に重きを置くよりも,自由に書き込むことを主な目的としていたが,情報交換を経て,自由に任せるばかりではなく,使用する文法項目やテーマを設定し,学習項目の意識化を図ることにした。具体的には,普通体で「自分史」を書かせたり,学生の文法や漢字の間違いを細かく指摘したりするようになった。それによって,単調になりつつあった書き込みから脱却し,テーマや文法項目などを意識的に捉えるようになり,書き込みの完成度を高めていくこ

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