早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●145川名恭子,他/初級日本語クラスにおける教師間シナジー特集 教室中心主義からの解放/寄稿論文ていくこととした。このような「既習文型や語彙を使用し発展的な練習とする」「書き込み内容をもとに,教室内で能力差を超えたやり取りを引き起こす」という活動目的は全て各クラスの状況からの判断によるものである。また,「自分の書きたいことを自由に書き込む」という目的も複数のクラスで設定されたが,その理由は様々であった。「日本語で自由に書き込む経験を通して,日本語使用に自信を持てるようになるため」という理由もあれば,「『日本語かきこ』で各学生が自己表現を行うことにより,よりよい人間関係を構築するため」という理由もあった。活動開始時,各担当者は学習者の習得状況やクラス状況を鑑み,「日本語かきこ」をどのように実践するかを考えていた。3-2-2 開始からランチ会までの各担当者の実践と模索活動の開始に伴い,学生からの書き込みに対するクラス担当者のコメント作業も始まったが,その方法は担当者によって異なっていた。学生の書き込み内容に関することだけでなく,文法・語彙の予習・復習を意識したコメントをする担当者もいた(宮武,田所)。また,開始してすぐ明らかになったことは,どのクラスにおいても学生は他者の書き込みをあまり読んでおらず,返信することはほとんどないということだった。これは担当者がFBする際に考慮しておくべき点であった。まず,どのようなFBを行っていたかについて具体例を述べていく。使用するシートとしては,Course N@viの書き込みをそのままコピーして配付する担当者(川名,宮武,水上)や,読むことが苦手な学生を意識して読みやすいように書き込みをシートにまとめる担当者がいた(田中)。ほとんどの担当者が,書き込みをした学生本人に音読をさせていた。書き込みの入力ミスや文法の誤用に関しては,担当者が間違いを指摘する(川名,宮武),学生自身で間違いに気づくことを促す(齋藤,田所,田中)などがみられた。また,誤用部分に下線を引く(齋藤,田中),音読の際に教師のコメントも読みあげることで訂正箇所に注目させる(田所)などの方法もあった。さらに,各々の方法で内容を深めるやり取りも行われていた。第1回の書き込みとFBが終了した時点で,軌道修正をすべく授業ボランティアを活動に参加させたFB担当者がいた(川名,田中)。川名は学生の書き込みが締め切り直前であったことからCourse N@vi上で学生同士がやり取りできなかったため,FB時に学生の書き込んだ内容をボランティアとの会話練習のテーマとして活用した。その際,自国の文化について話す機会があったが,学生の日本語レベルでは説明することが困難であった場合は,その場でインターネットに接続し,画像を使って理解を助けた。田中は初回の書き込みを読み,書くことが苦手な学生には書く意欲を刺激する読み手の存在が必要であると考えた。そこで,ボランティアも参加できるようCourse N@viの設定を変更し,学生の書き込みを読んで,時折返信してもらうようにした。このような活動によって教師とボランティアも含む参加者全員が学生から発信されたテーマを共有し,FB以外の授業の場面にも影響を与えることとなった。また,第1回の書き込みの前後から,活動に関するやり取りが教師間でみられるようになった。FB担当者同士では,どのようにFBを進めていくか,互いのクラスの様子はどうだったかなど,授業の前後に意見交換をし,時にはコーディネーターとも話し合いながら自分なりの進め方を確立していった。加えて同じクラスの担当者間でもやり取りがあった。齋藤は学生から第1回の書き込みが送られてきた後,「人に聞かせたい嬉しさや感動などがあって,それを,時間をおかずに日本語で伝える機会があるというのがいい」とメールし,活動の有効性についての認識を共有していた。

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