早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●1443-2 クラス担当者がどのように「日本語かきこ」を捉え,実践・工夫・改善していったか活動の目的として,コーディネーターからは「自分の伝えたいことを日本語で表現する機会を作る」という大枠のみが提示されていた。すなわち,より具体的な活動目的を設定し,それを学生にどう伝え,どう実施するかについては,担当者が現前の環境において各々の裁量で融通できるという仕組みであった。以下,FB担当者6名と火曜日担当者3名がどのように「日本語かきこ」を捉え,実践し,工夫・改善していったのかについて,学期終了後に各担当者から提出された振り返りレポートをもとに順を追ってみていくこととする。3-2-1 開始にあたり各担当者が設定した活動目的とその背景開始前にFB担当者はどのような活動目的を考えていたのだろうか。まず,川名は,学生間にレベル差がなく,揃って学習項目の習得が速いというクラスを担当していた。そこで,学習者が既習の語彙・文型を用いて書き込みをすることで,自分の思ったことを自由に書けるようになることを「日本語かきこ」の目的とした。したがって,FBも文法の間違いを訂正する程度のことを予定していた。宮武のクラスの学生は,学期開始時から仲の良い友人同士であり,学習状況もクラスの雰囲気も良好であった。そこで,学習項目を使った発展的な練習として利用し,学生に自信をつけさせることを活動目的として考えた。作文課題として,また学習事項の復習や予習として実践し,FBでは既習事項の復習や,学生が興味を持っている分野の語彙を扱うことを考えた。水上の担当するクラスも,学習者は学習項目の習得は速かった。しかし,年齢など属性差が大きいという特徴があり,学生同士の交流はあまりなかった。そこで,文型語彙の練習を軸にしつつ,学習者には初めて訪れた日本での生活からテーマを見つけて自由に,楽しく書き込むことを期待した。田所も同様に,学習項目を発展的に練習する場として捉えていたが,これは,クラス内に日本語で文を書くことに慣れていない学生がいたため,授業内だけでは文を読んだり書いたりする時間を十分に取るのが難しいと感じていたことが背景にある。そのため,それぞれの日本語力に応じて文を書く作業を行うことができる教室外活動として実践することを考えた。齋藤は,クラス内のレベル差の大きな開きから,毎回の到達目標を個別化せざるを得ない状況の中,学生間の関係性が良好に保たれるよう苦慮していた。互いにやり取りすることが困難なほど習熟度に差があるため,ともすれば個人授業が同時並行で進むような環境であった。そのため,習熟度に依らず互いのやり取りを引き起こすための装置として「日本語かきこ」を利用したいと考えていた。田中はFB担当者であると同時にコーディネーターでもあり,活動を企画した立場での実施となった。そこで,自分の言いたいことを自由に日本語で表現するというコース全体の目的に加え,担当クラスにおいては,活動を通してクラス内の人間関係を構築する,書くことを通して日本語学習面および生活面について内省する,という点を組み入れた目的を持っていた。次に,火曜日担当者はどうであったか。小西は,自身はFB担当ではないが,学生の書き込み内容を授業で積極的に使っていくことで,授業そのものが活性化し,クラスの人間関係が深まることを期待して,返信を行うこととした。また,渡部,佐藤も直接FBには関わらないが,学生が書き込みで自発的に自己表現することを期待しつつ,書き込みに返信するというかたちで活動に関わっ早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/139-152

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