●1402章 「日本語かきこ」の枠組み早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/139-152側からクラス設置者に向け指示が出された。そこで,「総合日本語(標準)1」のコーディネーターである坂田と田中は,学生が日常生活の中で母語もしくは英語で利用するソーシャルネットワーキングサービス(以下,SNS)をイメージし,学生が自分に関することを気軽に日本語で書き込む活動として「日本語かきこ」を考案した。これは,不足する2週分の授業を練習問題やレポートといった一般的な提出課題として代替するのではなく,コース目標に基づき,個々の学生が教室の内外で習得した日本語を運用できるような機会にしたいと考えたからである。つまり,「日本語かきこ」を通じて初級であっても十分日本語で表現できることを学生に実感させ,日本語を使うことに自信を持たせたいというコーディネーターの思いから生まれた活動なのである。実際に「日本語かきこ」を開始し,回が重ねられると,学習者の日本語表現の広がりのみならず,当初意図していなかったクラス担当者の活動に対する意識や取り組みの変容も見られるようになった。本稿ではこの点に着目し,2011年度春学期に実施した「日本語かきこ」に携わったコーディネーターやクラス担当者が共に活動を振り返り,教師の変容がどのようなものであったかを明らかにすることを目的とする。次の2章では,コーディネーターが考えた「日本語かきこ」の枠組みを述べ,3章では,2章であげた枠組みをもとに,担当者間の情報交換の経緯と,各クラスの担当者が実施前にどのように活動を捉え,どのように実施し,工夫を重ねていったかの詳細を報告する。最後に4章では, 3章のクラス担当者の実践から,どのように教師間の連携が行われたのかについて考察し,教師間シナジーの重要性を述べる。2-1 活動の目的「日本語かきこ」の活動を開始するにあたり,コーディネーターが設定した目的は,学生にとって身近なネットを通じ,自分の伝えたいことを日本語で表現することであった。このことから,学生が書き込む内容は自由とした。「おなかがすいた」「とても疲れている」といった自身の心境をつぶやくこともでき,また,「今日はとても楽しいことがあった」「今日はたくさん勉強した」といった一日の出来事を日記のようにつづることもできる。大事なことは,今感じていることを日本語で表してみることである。このため,宿題として書かなければならないという義務感よりも,気楽に書き込める楽しさや安心感が優先されるよう,自由度を高める枠組みにする必要があった。そこで,書き込む文字数や行数を制限せず,一言だけの書き込みも,作文のように長文に挑戦することも可とした。評価も,期限内に書き込みがあれば提出点を与えることにし,内容を評価することはなかった9)。また,学生の書き込みについては,締め切り後の授業においてフィードバック(以下,FB)を行うこととし,Course N@viを通して,学生の教室内での学習と教室外での言語活動を結びつける一連の学習活動となることを目指して実施した。2-2 実施期間活動開始時期は,基本的な動詞や形容詞の導入を終える5週目とし,1回のみの活動ではなく継続的な活動とした。なぜなら,授業を行うごとに学生が学ぶ新出語彙や文型は増えていき,表現の
元のページ ../index.html#142