早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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注 ●1353) 授業カルテとは,日付,学生の氏名や学籍番号・所属などの情報の他に「本日のテーマ」,「本4) 日本語教育研究センターで開講している副専攻科目は大きく必修の「コア科目」と「選択科5) 2011年度に日本語教育研究センターが提供したオープン教育科目の選択科目に「日本語教6) 本稿では「教材」と「素材」を区別している。「教材」は,日本語教育用の教科書や副教材8) 石田(1988, 2008改訂新版)では,サイレント法という呼び方はないが,VTRの特性として7.おわりに:教材論から教材価値論への転換中山英治/日本語教育における映画の一般的な教材価値と社会参画を支援できる教材価値特集 教室中心主義からの解放/寄稿論文本稿では,映画『男はつらいよ』を取り上げて,日本語教育における映画の教材価値を考察した。映画の持つ諸特徴や受講者の授業カルテの記述などから分析した結果,この映画にはこれまでも一般的に取り上げられてきた日本語が素材となる「言語的な教材価値」,文化や社会が素材となる「内容的(非言語的)な教材価値」,「外国人の社会参画を支援できる教材価値」が指摘できた。特に映画を通じて外国人が社会参加しやすくなる契機を生み出す力や映画にまつわる様々なメディアを利用して外国人が社会参画する可能性を指摘できたことは,新たな教材価値論の出発点になると思われる。本稿の理論的な位置づけは,従来の教材論ではなく,「学習者と教材」の関係性,「教師と教材」の関係性,「教材化のプロセス」を統合した「教材価値論」であった。従来の教材論では既成の教材への眼差しが強かったが,今後は素材から教材価値を見出すことや島田徳子・柴原智代(2008)が啓発するような「教材開発」がもっと進められるべきである。教材論から教材価値論への転換が求められていると言えるだろう。課題としては,本授業科目の活動で実施した「教材価値シート(作品別)」の分析が残っている。これは,学習者の映画に対する認知度や好感度,また教材として利用した場合の成果や効果を含めた評価度を分析するための活動タスクシートである。また,本授業科目で取り上げなかった別のシリーズ作品の分析も調査対象にしてデータを収集する必要があるが,これも今後の課題である。1) 学部の枠を超えた総合的かつ多様な教育を実現することを目的として2000年12月に設置された早稲田大学のオープン教育センターが展開している授業科目を指す。2) 多文化共生社会については,報告書「地域における多文化共生の推進に向けて」(2006年3月:多文化共生の推進に関する研究会)や報告書『多文化共生社会基本法の提言』(2003年3月:外国人との共生に関する基本法制研究会(山脇啓造代表))などを参照のこと。日の学び・気づき・感想など」,「クラスメートとの話し合いメモ」,「担当者からのコメント」を書いて提出するA4用紙1枚の授業活動シートのこと。毎回の授業で提出させ,すべての授業カルテに授業担当者からコメントを書いて返却する。目」があり,本授業科目はこのうちの「コア科目」に位置づけられている。育の教材」(担当:吉岡英幸教授)があった。等を指し教育用に作成されたもので,「素材」は,教育用に加工された部分を持つ以前のものを指す。従来,生教材(レアリア)とも呼ばれている。7) 共生言語については,岡崎(2003)を参照のこと。「音を消して画面だけでも使える(p. 274)」との指摘がある。

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