●120(2)授業方法:受講者に個の学びを実感してもらうため,全参加者が交流できること(2)の授業方法というのは,「学習過程の可視化や個別化」を意識した文脈である。担当者が受講(2)受講者が作成した映画の評価シート(4)担当者が作成して配付した教材資料(6)映画『男はつらいよ』に関連する諸資料早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/119-137【本授業科目の教育的文脈】(1)授業形態:日本人と外国人が混在して,異文化を背景にしながら共育できること(3)授業内容:日本語教育学の文脈で映画の教材価値を考えることこのうち(1)の授業形態というのは,「小さな多文化共生社会2)」の実現を意識した文脈である。広い意味では早稲田大学全体が教育の国際化を謳っていることにつながり,狭い意味では日本語センターで展開されている授業科目が同じ姿勢を共有してカリキュラムが組まれていることにつながる文脈と言える。もう少し具体的に言うと,日本語センターで開講されている通常の留学生を対象とした授業科目では,日本人ボランティアの学生が授業に参加したり,留学生間でも様々な国の留学生が参加したりしながら多文化共生の授業が展開されているということである。本授業科目でも,ある時には日本人と外国人という境界を意識できたり,ある時にはそうした境界を越えたりしながら教室という小さな単位で共生を経験し,共育していけることを目指したというわけである。者の学びのプロセスを目に見える形で確認できたり,受講者自身にもそれが見えるように考慮したということである。そのための方法として本授業科目では,「授業カルテ」という報告書3)を毎時間授業後に提出させることにした。(3)の授業内容というのは,本授業科目で取り上げたテーマである。本授業科目はオープン教育科目の中でも日本語教育学の副専攻科目のコア科目4)として位置づけられていることもあり,日本語教育学における主要な内容を扱う必要性もあった。他のコア科目との関係を視野に入れながら,日本語教育学のテーマの中でも比較的実際の日本語教育の授業内容が理解しやすいようなテーマを提供したいという考えがあった。他のオープン教育科目には教材論の概要的な授業科目5)があったため,本授業科目では,視聴覚教材の一つである映画の教材価値を考えるという限定付きで開講した。本授業科目の教育的な文脈について言えば,少なくとも担当者の意識の中では以上のような3点を踏まえていたと言える。本授業科目「日本語教育教材考:映画『男はつらいよ』の日本語と日本文化」は,2011年度秋学期で4期目の開講授業となる。これまでの授業を展開してきた中で,資料となる受講者の授業カルテや授業の中で議論してきた教材価値についての考えが蓄積されてきたので,一度これをまとめてみようというのが本稿の動機の一つである。本稿をまとめるのに際して,参照した資料は,次の通りである。【参照した資料】(1)受講者が書いた授業カルテ(3)受講者が発表した映画の教材価値プレゼンテーションの発表資料(5)映画『男はつらいよ』の映画(DVD)と教材用脚本スクリプトなお,受講者の作成した資料や授業カルテの使用許可については,毎学期の受講生に担当者の教材研究や授業改善のためだけに使用するという趣旨を説明して,その使用許可をもらっている。また,早稲田大学日本語センター内に設置されている研究調査倫理申請委員会からも研究調査実施に関する承認を得ている。
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