早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●115Hさん: 最初,この授業のやり方は少し疑問を抱いていましたけれども,今,やっと分かりまKさん: 演劇をつくるとき,アイディアは,当然に沢山あるので,演劇を作ることの鍵は,妥中山由佳/ひととものをつくる特集 教室中心主義からの解放/寄稿論文した。テーマ,内容,セリフなどは,何回も話し合って討論されて,決められたことが分かりました。これは勉強の一つだと思います。他人の意見を聞くと,違う国の人の考え方も文化もより一層分かってくれるし,自分の意見も言いたいこともほかのメンバーに適当に伝えることを学習することができるし,とてもいい勉強になりました。しかし,ここに至るまでは,苦しい時期や葛藤を乗り越えるという過程があった。「いくら他人の意見がよいまたはグループにとってよいと言っても,それが自分の考えとぶつかる時の自分の葛藤はいかに大きいものかに感じました。」(Iさん)のように,他者の意見と自分の意見が相反する時に,そこから合意に至るまでの道のりの苦しさを実感したという学習者もあった。また,「いろんな国の文化や考え方とぶつかり,いろんな性格を持っている人と話し合いながら共演するのは演技の磨きより難しかった」(Jさん)というように,それぞれの背景の違いからくるぶつかり合いであると位置づけた学習者もいた。ある学習者は,はじめは,互いを説得することを主眼に置いていたのが,徐々に「聴く」という姿勢を身につけていったことを語っている。Iさん: 半期の授業を通して,一番感じたのはグループ内でみんなの意見をまとめる時の大変な思いでした。ストーリーをみんなで考え始めた時から,この点に気づきました。しかし,その時考えてたのは,みんなで最適な意見に合意することではなく,他人を自分の考えに納得させることでした。それからまた何回かの話し合い後,メンバー達各自の持つアイディアにも耳を傾けるようになり,人が集めれば集めるほど,蓄(?)えが増えることに気づきました。また,ある学習者は,見つけた一つの方法を「妥協」という言葉で表現している。協を図ることである。妥協を効果的に図れば,いい演劇を作れると思う。私達の演劇で,色々なアイディアが含まれたので,妥協を効果的に図ったと思う。ここで言う効果的な妥協とは,合意ということではないかと推測する。議論を重ね,検討を繰り返し,取捨選択を行う。しかし,議論を重ねるだけではない。自分の意見に固執せず,よりよいものを作り出すためには,他者の意見を尊重するという姿勢がそれぞれになければ,「自分の提案したものが採用されなかった」というくすぶった思いが残るだろう。3.1.2 演劇という活動本実践は,「演劇作品」の制作・上演をめぐる活動であるが,それは学習者にとってはどういう意味があったのだろうか。以下,学習者の声を拾う。

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