早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●1121作品は,上演時間がだいたい30〜40分程度のものとなっている。表3は,過去に制作された早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/107-118教師側の学習者の状況把握という目的もある。毎週「自分のコミュニケーション,クラスのコミュニケーションについて,気付いたことを書く」というものであったが,学習者の取り組みは様々で,つぶさに自己の言動・行動を内省したものもあったが,毎週の提出をし損ね,まとめて提出したり,「たくさん話した」など,深い内省のプロセスが見られないものもあった。この課題に関して,「毎週同じ課題なので,書くことがなく,退屈に感じた。もっと違う切り口の課題を出してほしい」というような意見があった。おそらく,これに関しては,課題の意味がよく理解されていなかったのかもしれない。2011年度からは,中間のみとし,中間地点で,じっくり腰を据えて考えてもらい,それぞれの思いを語ってもらうこととしている。2.3.6 練習台本完成後,配役を決めて,練習に入る。この練習では,様々な展開の仕方がみられる。たとえば,演劇経験者の学習者がいたグループでは,その学習者が演出家的な役割をし,みんなに指示して,作品を作り上げて行った。また,別の学期では,演劇経験はないが,演出を希望した学習者に演出と言う役割を与えたところ,演出プランを練ってきて,指示を出していた。演出家が複数になった場合もある。その場合は,複数の演出家が,相談をしながら,プランを立てて行った。また,全く演出家を立てなかった場合もある。その場合は,見ている学習者が互いに意見を出し合い,修正を試みていた。また,学期終盤には,授業時間外での練習も増えて来る。学期途中ではモティベーションが下がったように思われる学習者も,最後に向けては,なんとか時間を調整して練習に参加していた。しかし,学習者は,常に能動的に動いて,調整を行っているわけではない。自分の役割のみをこなし,他の学習者の練習を見るでなく,おしゃべりなどをしている場合もある。コミットメントの意識がどのようにして高まるのか,また,熱心な学習者との間のギャップをどのように埋めて行くのか,今後の課題である。2.3.7 上演会準備本実践では,論文執筆の部分は,全員が担当する,ということにしたが,台本完成後は,役割分担を行い,各自がその役割を遂行する。演出,キャスト,音響,美術,宣伝,といった係が主な役割である。ここでの発見は,台本執筆の段階では活躍できなかった学習者が,舞台の道具作りやチラシ,宣伝などで,存在感をアピールできるということである。その全ての仕事が演劇作品を作り出している,演劇はキャストだけのものではない,支えあって出来上がるものである,という演劇制作のあり方は,学習者にとって,社会のひとつのありようを体験できる空間なのではないだろうか。2.3.8 上演会作品である。学習者は,本番においては,その持てる力を十二分に発揮する。リハーサルではセリフもうろ覚えであったキャストも,小さい失敗はしながらも,無事に役をつとめ上げる。観客を前にして,学習者たちは,なんとか成功させようと,舞台を見つめ,集中し,セリフを忘れるなど誰かが失敗したときはアドリブなどでおぎない,舞台転換の時は能動的に動くなど,ふだんでは見ら

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