早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
113/222

●111中山由佳/ひととものをつくる特集 教室中心主義からの解放/寄稿論文た具体的イメージがない場合には,「起承転結」を導入し,それに沿って「箱書き」1)を行うという方法をとった。ストーリーがほぼかたまると,登場人物のプロフィールを明確にして,台本執筆に入る。台本執筆で今までに実践したのは,各自で分担して作成してきたものとつきあわせ,授業で検討する方法と,授業時間内で相談しながら進めて行く方法である。ここで問題になってくるのが,シーンとシーンのつなぎ方である。特に分担して執筆した場合は,それぞれのシーンのイメージにずれがあるので,議論してすり合わせをすることが必要となる。本実践は,2006年以降はマルチレベル(中上級〜超級の学習者対象)の授業になっており,確かに台本執筆のスピードなど作業の面などにおいては,そのレベル差は存在する。しかし,グループに対する影響は,必ずしも日本語力のレベルによるものだけではないようである。ある学期で,テーマ設定をしようとした際に,グループ内で一番下のレベルの学習者(Cさん)が発言した。Cさんは,自分が感動した話を引用し,一人の人間が,ある人間に出会うことによって変わると言う話を作りたいということを何度も何度も主張した。Cさんの熱意が,他の学習者に伝わり,結果的にそのテーマで作品を作ることになった。テーマ設定から台本完成に至るプロセスは一番時間を要し,時に,最終稿が本番前日となってしまった時もあった。これは,グループのメンバーが合意に至るまでにかなりの時間がかかるためである。2.3.4 授業外での話し合い本実践は,週1コマの授業である。さらに,学習者は,日本語専修課程の学習者のほか,様々な学部・研究科の学部生,大学院生であるため,人によっては,この授業の時間で唯一顔を合わせる,ということになる。しかし,90分という時間は短く,授業での話し合いは議論があたたまってきたところで,時間切れとなってしまう。それを解消し,コミュニケーションの円滑化を図ることを目的に,授業内のディスカッション以外で,学内のネットシステムを通してのインターアクションを導入した。しかし,学習者のPCインターネットのアクセスはそれほど多くないようで,それを頻繁に確認する学習者となかなか確認しない学習者の間で,インフォメーションギャップができてしまった。ある学期では,「インターネットの掲示板で議論をする」ということを宿題として課し,数名は,アクセスして掲示板に意見を書きこみ,それをもとに教室の議論を重ねようとしていたが,アクセスをしていない,または確認をしていない学習者がグループ内に多数いたため,話が一週間前の段階に戻ってしまい,掲示板に書かれた意見が結果的に反映されないようになってしまったことがある。これは学習者のインターネット環境と教育機関側の提供するメディアとのずれによる問題でもある。せっかくのメディアであるが,学習者にレディネスがなければ,有効に使うことはできない。また,言いっぱなしになりがちな書き込みツールは,少なくとも現在の学習者には,議論を深めて行くのに適さないメディアなのかもしれない。2.3.5 学期中の振り返り(毎週の振り返り)または中間レポート授業期間中は,毎週の振り返りを行い,自己やクラス内でのコミュニケーションについて意識化・内省し,自分の行動の指針を考えるという課題を課した。これは,学習者の意識化とともに,

元のページ  ../index.html#113

このブックを見る