早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●1082.授業の概要早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/107-118客を排除することに関して,ブライアン・ウェイ(1977)は,ドラマ教育の活動は,集中力が必要だが,観客の存在がそれを分散させて,妨げ,破壊してしまうと述べている。そのため,他人に見られる心の準備ができるまではそれを避けた方がよいと主張する。しかし,本実践では,即興ではなく,台本を作成し,練習をして,観客に見せる,という形式を取る。クリスチャン(2003)は,演劇プロダクションの目的として,①最高の質を求める劇を作り出すこと②価値ある学びの体験を学習者に提供すること③相互協力④グループプロジェクトとしてのコミットメント⑤学習したスキルで洗練された作品を制作⑥楽しむ⑦劇の技術的部分の知識⑧最善を尽くすことで,興奮や満足を得る⑨自信と自立心を養う⑩創造力を養う,の10項目を挙げている。本実践の上演会では,観客として,自分達を知っている友人たちだけではなく,一般の観客も来場可能としている。これは,クリスチャンの①,③と関連し,自分達と関係の薄い他者の鑑賞に耐えうるような,作品作りが目指せるということがある。教室の外に向けての発信,社会に向けての発信,ということの意識付けも行う。上演会は,大学内のモニュメント的講堂で行い,制作の時点では,折に触れ,「観客はどうとらえるか」「伝わるのか」ということに目を向けることは,批判的に作品作りをするためのしかけである。2.1 参加者本実践を履修している学習者は,日本語専修課程の学習者,各学部・研究科の学部生,院生で構成されている。日本語のレベルも中級後半から超級と幅が広い。履修学生のほかに,日本人のボランティア学生も参加した。日本人のボランティア学生は,台本作りの支援,スタッフワーク,キャストと,学習者に寄り添い,ともに作品を作る仲間となった。2.2 上演会の設定上演会は,教室ではなく,演劇演習室や大学の講堂などの会場をおさえ,実施している。この設定の意図は,①「教室の外への発信」の意識付けをし,教室内や留学生コミュニティで自明のこととされていることに対しての検証を行い,作品の質を高める,②学習者に「公的な場所で行う」ということを提示することによって,モティベーションを上げ,また,それに対する責任意識を持たせるというものである。2.3 授業の流れ舞台演劇作品制作の授業実践は,2004年より始まった。中級後半以上の日本語授業履修者を対象に,1学期間(週1コマ(90分)×15週)で,演劇作品を協働で制作し,上演会を行うというのが,その活動内容である。授業の流れは,開講当時から試行錯誤を重ね,現在,ほぼ,主に表1のような流れとなっている。2.3.1 オリエンテーションオリエンテーションでは,授業の概要を説明し,過去作品のDVDを視聴し,授業のゴールをイメージしてもらう。また,留意点として,「このクラスでは,人との協力が必要である」というこ

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