早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●9黒田史彦/留学生支援システムの構図特集 教室中心主義からの解放/基幹論文しく生きていくための修学環境を自らの働きかけによって作り出すこと,すなわち,自己実現のための留学生活を築き上げていくことである。自律的な日本語学習を実現できる学習環境と留学生活における自己実現を可能とする修学環境の創出を理念に掲げ,あらゆる日本語学習リソースや留学生サポートと個々の留学生との間を有機的に取り結ぶ支援ネットワークの総体が留学生支援システムである。日本語教育研究センターでは,留学生支援システム構築の一環として「わせだ日本語サポート」を開設し,新しい留学生支援活動の拠点としている。わせだ日本語サポートでは,大学院日本語教育研究科と手を組んで大学院生を支援スタッフとして配置し,ピア・サポートを実施している。最初に,留学生支援システムの主要構成と機能について,概念図を示しながら解説していきたい。2.1.日本語学習リソースと留学生サポート留学生自身による主体的なセルフ・アクセスを可能にする大学空間を作り出し,日本語学習と留学生活を多面的・総合的に支援する使命を持つ留学生支援システムでは,まず,留学生が必要とする日本語学習リソースや留学生サポートに関する情報を収集しなければならない。日本語学習リソースとは,留学生の日本語学習に結びつき得るあらゆるヒト・モノのことである。早稲田大学にあっては,わせだ日本語サポートとその支援スタッフ,日本語学習の計画を立てたり振り返りや自己評価を行ったりする際に利用可能な自己管理ツール(例:学習計画シート),日本語教師をはじめとした日本語教育に携わる教職員,多種多様な日本語科目,日本語チューター制度,「にほんご わせだの森」(池上2009),図書館や学生読書室の蔵書と日本語学習材,学生用パソコンルーム,アカデミックな文章の作成を支援するライティングセンター,国際コミュニティセンター,国際交流サークル,留学生の友人・級友・先輩などにあたる(日本人に限らない)学生などが挙げられる。学内だけではなく,学外地域やWEB上にも数多くの日本語学習リソースが存在している。留学生サポートとは,留学生活の質的向上に結びつき得るあらゆるヒト・モノのことであり,日本語学習リソースをも包含するより広い概念である。上述のわせだ日本語サポートや支援スタッフなどの日本語学習リソースに加えて,留学生支援に関わる教職員,留学センター,留学生の就職活動を支援するキャリアセンター,学生寮を管轄するレジデンスセンター,心身の健康を管理する保健センターと学生相談室の各種サービスなどが挙げられる。その他,学外地域やWEB上には,自治体などによる留学生サポートも多い。図1は,留学生のための日本語学習リソースと留学生サポートを概念的に示したものである。一番外側の四角い枠は,或る留学生が物理的に,または,WEB上でアクセス可能な最大範囲である。丸印が日本語学習リソース(R)ないし留学生サポート(S)を表している。実線の丸印は,その存在や役割を留学生に認識されているものであり,破線の丸印は,その存在や機能を留学生に知られていないものである。いかに優れた学習リソースや留学生サポートであっても,留学生に認知されていないのでは,存在していないも同然である。大学内外およびWEB上に,どのような日本語学習リソースや留学生サポートがあるのかという情報を広範に収集し,適切に分類・整理した上で留学生に提供していくことが留学生支援システムの最初の任務である。

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