●1071.演劇作品制作授業のめざすもの寄稿論文教室実践の新展開本稿で述べる演劇作品制作という授業実践は,学習者が,対話を重ねながらオリジナル作品を協働で執筆し,上演するという活動である。本実践は,次のことを目的として掲げている。□ 演劇作品を作るという課題を通して,想像力を刺激し,学習者一人一人が持っている抽象的なイメージを,日本語で他の人に伝えられるような表現力を身につける。□ グループでの作品作りを通して,コミュニケーションについて考え,お互いの考えや立場を理解して,コミュニケーションできるような姿勢を身につける。上記の考え方は,池田・舘岡(2007)の提示した,日本語教育における協働学習について,①対等性,②対話,③創造,④プロセス,⑤互恵性の5つの概念要素に対応する。本実践は,第一義として,学習者同士の演劇作品というアート作品の協働制作活動によって,想像力をかきたて,駆使し,発信し,かつ,受信する。そして互いの違いから学び合い,より豊かなものを得ようとするという活動である。プロセスということに関して,小林ら(2010)は,主に子どもの個人的発達と社会的発達をそのねらいとし,過程を重視した「ドラマ教育」を,上演を目的とした「演劇活動」とは区別している。「ドラマ教育」に分類されるものとしては,クリエイティブ・ドラマ,DIE(Drama in Education),プロセスドラマなどを挙げているが,いずれも,即興的で,観客に見せることを目的としない。観要旨中山由佳/ひととものをつくるProcess of Drama Production in a Japanese Class特集 教室中心主義からの解放/寄稿論文Collaboration in Creative Works:中山 由佳本稿は,中上級以上の日本語学習者を対象としたオリジナルの舞台演劇作品を制作するクラスでの授業実践について述べる。本実践は,演劇作品制作活動を通し,抽象的な表現を他者に伝えられるような表現力の拡張,他者とのコミュニケーションについて内省し,より前向きなコミュニケーションを目指す。それと同時に,教室から社会に向けての発信をする,ということも意図している。授業の概要については,詳細を提示しながら,実践の上で見受けられた状況(①情報の共有の困難さ②グループで合意を得ることの困難さ③上演会における学習者の様子)を報告する。さらに,学習者の振り返りから,本実践の意義について考察する。キーワード:演劇,協働,コミュニケーション,内省,外への発信ひととものをつくる―演劇作品作りの現場としての日本語の教室から―
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