注 ●1044) アクションリサーチに関しては,Kemmis, S. & McTaggart, R. (1988),三代・古屋・古賀・寅5) 「09春」,「09秋」:担当者=古賀,TA=三代。「10春」以降:担当者:古屋,TA=古賀。早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/85-105の見守り役に徹しつつ,状況に応じて注意・確認・アドバイスを行う役割を担う存在,かつ「イベント企画プロジェクト」の教室というコミュニティを他の様々なコミュニティとつなげ,拡張を促す存在へと変容した。以上のように,私たちは,二つのあり方によるリフレクションを行き来しながら,「イベント企画プロジェクト」という実践を継続して来た。具体的には,実践の現状を把握するリフレクションにより得られた観点で実践の構造を把握するリフレクションを行い,そのリフレクションにより得られた観点により,次の実践の現状を把握するリフレクションを行うというサイクルを継続してきた。その結果,「イベント企画プロジェクト」を支える私たちの価値観は,徐々に変容していった。どのような日本語教育実践であれ,通常,教師は,実践の現状を把握するリフレクションを行い,問題点を発見し,発見した問題点を改善しながら,実践を継続する。しかし,実践の現状を把握するリフレクションのみにより実践を継続した場合,どうしても教室における学習者と教師の関係や授業内容・学習方法等が固定的になりがちである。なぜなら,実践の現状を把握するリフレクションにおいては,当該の実践を支えている価値観(実践観,教室観,教師観等)が問われないからである。教師の価値観が問われず,価値観の意識化や問い直しが行われないまま実践が継続された場合,実践を支える価値観は固定化し,強固になり,変容の余地を失う。その結果,当該の実践は,ダイナミックさを失い,硬直化する。上述した実践の現状を把握するリフレクションと実践の構造を把握するリフレクションを行き来することは,この硬直化に抗う手段の一つとなる。二つのあり方によるリフレクションを行き来することにより,教師はより多様な観点から実践,教室,教師の役割等を捉えられるようになる。そして,実践を支える価値観を常に問い直し,捉え直し,変容させ,変容した価値観のもとで実践を再デザインする。このようなサイクルの継続により,日本語の教室は,可変的でダイナミックな言語教育が展開される場となるはずである。1) 「イベント企画プロジェクト」という科目の担当者は1名である。しかし,筆者らは,次の二つの経緯から,「イベント企画プロジェクト」を3名全員の実践であると捉えている。①毎回の授業後には,3名でミーティングを行い,実践の方向性を決定した。②実践の構想・計画・実施,いずれの段階においても,常に3名で検討し,決定した。上述したような実践者の捉え方により,以下,「イベント企画プロジェクト」の実践者を表す呼称として,「私たち」を用いる。2) 2009年度春学期,秋学期の科目名は,「討論会プロジェクト」であった。しかし,「討論会」という言葉からディベートをイメージし,クラス活動の内容がなかなか理解できない学習者が多かった。そこで,2010年度春学期に科目名を「イベント企画プロジェクト」に変更した。以降,2011年度秋学期まで「イベント企画プロジェクト」を科目名としている。3) 日本語科目を履修する学習者は,1レベル(初級前半)から8レベル(上級後半)にプレイスメントされる。「6–8」は,6レベル(中上級)から8レベル(上級後半)の学習者が履修する科目であることを表す。丸・長嶺・武・市嶋(2011)を参照のこと。
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