早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●103古屋憲章,他/クラス担当者の実践観,教室観,教師観はどのように変容したか特集 教室中心主義からの解放/寄稿論文「イベント企画プロジェクト」の教室というコミュニティの時間的な広がりや空間的な拡張を促す役割を担う存在であるとも捉えている。以上のような私たちの「イベント企画プロジェクト」の実践観,及び教室観,「イベント企画プロジェクト」における教師観の変容は,私たちがこれまで5学期にわたり「イベント企画プロジェクト」という実践を進めながら行ってきた,次の二つのあり方によるリフレクションによりもたらされた。一つは,実践の現状を把握するリフレクションである。実践の現状を把握するリフレクションは,当該学期の実践を行っている最中,または,次学期の実践を計画する際に,授業記録の記述,TA報告書の記述,ミーティングという形態で行われた。私たちは,実践の現状を把握するリフレクションを通して実践における問題点を見出し,見出された問題点を解決する方策を検討した。もう一つは,実践の構造を把握するリフレクションである。実践の構造を把握するリフレクションは,当該学期の実践終了後,一定の時間を置き,ある程度長い時間をかけて行われた。主に質的な分析手法を用い,実践に関する質的なデータ(記述による実践の記録,録音・録画による実践の記録,参加者へのインタビュー等)を分析することを通して,実践における参加のプロセス,学びの構造,コミュニティ変容のプロセス等を可視化しようとした。実践の構造を把握するリフレクションにより可視化された実践の構造は,学会発表や論文投稿という形態で公開した。実践の現状を把握するリフレクションと実践の構造を把握するリフレクションは,相互に関連しており,切り離すことができない。私たちは,実践の現状を把握するリフレクションにより,実践の問題点を見出した。そして,解決策を考案し,問題に対処しようとした。実践を進めていくためには,様々な問題点に,その都度対処せざるを得ない。しかし,問題点に対処しながらも,どこか「本当にそういう対処でよかったのか。問題点のみにフォーカスするのではなく,もっと一つの学期の実践全体の中で何がどのように起こっていたかという全体像を把握する必要があるのではないか」と思っていた。そうしたある種の違和感が,私たちを実践の構造を把握するリフレクションへと向かわせた。実践を行う中で私たちが問題であると感じた点が,実践の構造を把握するリフレクションの観点となった。例えば,「09春」における最大の問題点は,「学習者が問題意識を共有できない」という点であった。そのため,私たちは,「問題意識の共有」を観点とし,実践の構造を把握するリフレクションを行った。その結果,「『交渉や摩擦の経験』が人間関係を作り,イベントを作るという実践自体が先に共有され,いいイベントを作るということ自体があとから問題意識として共有され,その解決・達成へ向かって,徐々に学習者が主体的になった」(古賀・三代・古屋2010c,p. 94)というプロセスが可視化された。可視化された実践の構造は,実践の現状を把握するリフレクションの観点の一つとなる。例えば,「09春」を対象とする実践の構造を把握するリフレクションにより可視化された「実践自体の共有」→「問題意識の共有」→「主体的参加」というプロセスは,「学習者が既に持っている問題を共有することで,その問題の解決に向けて実践を立ち上げることができる」(古賀・三代・古屋2010c,p. 94)と考えていた私たちに,実践の現状を把握するリフレクションの観点の変容を促した。その結果,「10春」においては,実践の現状を把握するリフレクションの観点が「問題意識の共有」から「主体的参加」へと移行した。実践の現状を把握するリフレクションの観点が質的に変化したことにより,「09春」における最大の問題点であった「学習者が問題意識を共有できない」という点は,「10春」においては問題視されなくなった。その結果,私たちの「イベント企画プロジェクト」における教師観は,環境整備,注意・確認・アドバイス,クラス活動の方向づけ,軌道修正,問題解消を行う役割を担う存在から,クラス活動

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