早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号
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●984–3–2,4–3–4で詳しく述べたように,「10春」のクラス活動は,リピーター学生が牽引した。し早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/85-105アを尊重する姿勢が有効ではないか。学習者から出て来たアイディアに異議を唱えることは,学習者の主体性を阻害し,動機づけを下げる行為ではないか。私たちは,「10春」にも,「09春」,「09秋」と同様,基本的にクラス活動の見守り役というスタンスでクラス活動に関わった。「09春」,「09秋」には,クラス活動の見守り役に徹することに迷いがあった。そのため,状況に応じ,クラス活動の方向づけ,注意・確認・アドバイス,軌道修正,問題解消を行う役割を担っていた。しかし,「10春」にリピーター学生の主体的な参加を目の当たりにしたことにより,「09春」,「09秋」に私たちが抱いていたクラス活動の見守り役に徹することへの迷いは徐々に薄れ,クラス活動の見守り役に徹することに確信が持てるようになった。また,それに伴い,私たちは,企画内容に対する注意・確認・アドバイスを行うという役割を担うようになった。反対に,クラス活動の方向づけ,軌道修正,問題解消を行う役割は,徐々に後退していった。4-4.2010年度秋学期「イベント企画プロジェクト」(以下「10秋」)4-4-1.実践概要■期間:2010年9月30日〜2011年1月28日(週1コマ=90分×15週)■クラス参加者:学習者10名,日本人学生ボランティア4名,担当者1名,TA1名■クラス活動の流れ:「10春」のクラス活動の流れを踏襲し,「10秋」もクラス活動初期に担当者から次のような課題を提示し,学習者が実施した。①お互いの名前を覚える。②企画グループを作る。また,「10春」同様,担当者主導により,クラス活動初期にICCの学生スタッフによるイベント企画の手順に関するレクチャーが行われた。更に,「10春」の学習者に自分たちのイベント企画の手順を紹介してもらった。その後,企画グループごとに企画案を検討した上で,企画案をプレゼンテーションした。プレゼンテーション後,投票により,イベント企画を決定した。決定した企画は「国際貿易ゲーム」7)である。企画決定後,五つの役割班が編成され,役割班の班長から,リーダー(1名)と執行部(4名)が選出された。その後,リーダーと執行部を中心にイベントの企画,及び準備が進められた。企画,及び準備の過程で,「国は一国じゃ成り立たない」というイベントテーマが決定した。1月14日に行われたイベント,「国際貿易ゲーム―国は一国じゃ成り立たない―」には,クラス外の日本人学生,留学生等,28名の参加があった。イベントは,チーム分け→国際貿易ゲームのルール説明→国際貿易ゲーム→ビデオ(ゲーム中の参加者の様子をまとめた作品)視聴→結果発表→ゲームの振り返りという流れで行われた。4-4-2.2010年度秋学期「イベント企画プロジェクト」の実践観の変容かし,「10秋」にはリピーター学生がいなかったため,私たちは「10秋」開始当初,「リピーター学生なくして,学習者のイベント企画への主体的参加が実現されるだろうか」と心配していた。が,予想に反し,学習者はクラス開始当初から主体的にイベント企画に取り組み始めた。「10春」に続き,学習者が主体的にイベント企画に取り組む様に接したことにより,私たちは,「イベント企画プロジェクト」という実践を,確信を持って,学習者がイベントを企画・開催するという仕事を協働で主体的に遂行する活動であると捉えるようになった。

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