●82.留学生支援システム早稲田日本語教育実践研究 刊行記念号/2012/7-23ない,第三の可能性を探る。つまり,大学において日本語を学ぼうとする留学生の目を教室の外にも向けさせ,個々の留学生に相応しい学習環境と修学環境を実現するための理念と実践について論を展開し,従来型の学習・教育に対する固定観念の転換が大学全体に必要であることを述べる。次節以降においては,教室や授業だけに囚われない自律的な日本語学習に対する支援を基軸としながら,実り多い留学生活を実現できる大学空間の創造を目指している早稲田大学日本語教育研究センターの取り組みについて論じる。特に,学習支援および修学支援の役割を担う支援機構である「留学生支援システム」と,その要となる「わせだ日本語サポート」について,設置背景や理念,運営方針,そして実践状況について詳しく述べていく。2011年現在,早稲田大学には約4000人の留学生が在籍しているが,2020年までには留学生を8000人に倍増しようという計画が動き出しており,毎年,留学生数は確実に増加している。他大学等の教育機関と同様に,早稲田大学においても留学生の受け皿として日本語科目(授業)を増設しており,約200名の授業担当者(日本語教師)が週あたり750コマ以上の日本語科目を開設している。しかし,今後も増加する予定の留学生を受け入れるために必要な授業担当者や教室の確保は,既に極限状態に近づいている。また,日本語科目の数や種類が増えれば増えるほど,履修計画を立てたり科目登録手続きを行なう際に支障をきたす留学生も増える。授業の内容,開設の曜日,時間,場所(キャンパス)などの都合で,日本語科目を受講したくてもできない留学生の数も無視できないほど増えている。さらに,多様な背景やニーズを持つ留学生の中には,一斉授業という形態の語学クラスに馴染めない者も少なくない。日本語で苦労する留学生が増える中,大学内外の留学生活における問題を抱え込む留学生も増加している。もちろん,大学内には日本語科目以外の日本語学習リソースも準備されており,留学生向けの留学生サポートも整備されつつある。たとえば,日本語教育研究センターでは,随分以前より日本語チューター制度を設けている。しかしながら,このような日本語学習リソースや留学生サポートについては,留学生からのニーズは多分にあるものの,十分に活用されているとは言えない状況であった。これは,日本語教育研究センターや留学生受け入れ担当部署である留学センター,学生間の国際交流担当部署である国際コミュニティセンターなどが提供する学習リソースや留学生サポートに関する情報が,部署ごとに散発的に発信されるに留まっていることに起因する。つまり,有益な情報であっても,一箇所に集約されることがないため,その情報を必要としている留学生の元にまで効率的に到達していなかったのだと考えられる。以上のような日本語学習上の問題および留学生活上の問題を包括的に解決し,留学生の学習環境と修学環境を改善していくためには,全学的な留学生支援機構が必要となる。このような発想から日本語教育研究センターに設置されたのが,「留学生支援システム」である1)。留学生支援システムの理念は,個々の留学生が自分にとって必要な日本語学習リソースや留学生サポートに,安心してセルフ・アクセスできるような大学空間の創造を目指すことである。日本語学習リソースへのセルフ・アクセスが可能であるということは,留学生が自らに必要な日本語を,都合のよい時に,最適な方法で,主体性を発揮して計画的に学ぶこと,すなわち,自律的な日本語学習を実現することである。また,留学生サポートへのセルフ・アクセスが可能であるということは,留学生が自分ら
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